幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
「千代さん、千代さん!」
「まあ、朱里お嬢様。どうなさいました?」

厨房で夕食の盛り付けをしていた千代は、朱里に手招きされて手を止めた。

「あのね、ちょっと頼みたいことがあるの。今日、瑛の誕生日でしょ?だから今夜の夕食の時、サプライズでお祝いしたくてね…」

朱里は千代の耳元でコソコソと内緒話をする。

「分かりましたわ!千代にお任せくださいな」
「ありがとう!千代さん。よろしくね!」

朱里は瑛の反応を想像して、ふふっと笑った。

しばらくして瑛の父も帰宅し、朱里と瑛、瑛の両親が向かい合ってダイニングで夕食を食べる。

「それで兵庫に行った時は、皆さんステージで歌ったり踊ったりで大歓迎してくれたんです。だからコンサートでも、皆さんが参加出来るコーナーがあったらいいなと思って。生演奏に合わせて婦人会の方が踊ったり、客席の皆さんが歌えるような曲を演奏したり」
「なるほど。それは喜ばれそうだな。取り壊されてしまう市民会館で、最後に皆さんの良い思い出が出来るといいね」
「はい」

そろそろ食事が終わろうとした時、いきなり部屋の電気が消えた。

「あらー?停電かしらー」

妙に棒読みな口調で朱里が言う。

「千代さーん、ロウソクある?」
「はい、今お持ちしますねー」

そう言って千代が、キャンドルホルダーに立てたロウソクを持ってきてくれる。

テーブルの真ん中に置き、辺りがほのかに明るくなった時、瑛の前にはホールケーキが置かれていた。

ん?と覗き込む瑛に、朱里が笑いかける。

「ハッピーバースデー!瑛」

朱里が作ったチョコレートのホールケーキに『Happy Birthday! AKIRA』のチョコプレートと大小2本ずつのロウソク。

朱里はそのロウソクに火をつけた。
すると…
「ん?」
今度は朱里が首をかしげる。

瑛のチョコレートケーキの奥に、白いホールケーキが置かれていた。

可愛く並べられたイチゴと生クリーム。
そしてプレートには。
『Happy Birthday! AKARI』

「えええー?なんで?どうして?私の名前?どこから来たの?このケーキ」

あはは!と瑛の両親が笑い出す。

「朱里ちゃん、相変わらずいい驚きっぷりだね」
「本当!昔を思い出すわ。あなた達、お誕生日が5日違いだから、いつも一緒にお祝いしてたわよね」

でも、なんで、どうして?と、朱里はまだ動揺している。

「千代さんから、朱里ちゃんが瑛にサプライズでケーキを用意してくれてるのを聞いたの。だから私達も、朱里ちゃんにサプライズでお祝いしたくて」
「いやー、大成功だったな」
「ふふ、本当に」

そうだったんですか、とようやく納得した朱里は、隣の瑛を見る。

「瑛、ふっつーだね」
「ん?何が?」
「もっとこう、わー!びっくり!みたいな反応出来ないの?」
「いや、俺の驚きなんてあっという間に朱里にかき消された」

ガックリと朱里はうなだれる。

「何よもう!そりゃ、感激して涙しろとは言わないけど、少しは驚いてくれたっていいでしょ?」
「でもさ、朱里、サプライズするって宣言してただろ?それにさっきの、停電かしらー?って超棒読み。そんなあからさまに匂わせておいて、驚けって言われてもねえ」
「ムキー!そこは演技でもいいから驚きなさいよ!」
「はいはい、分かりましたよ。うわー、驚き、桃の木、山椒の木ー」
「なにそのオヤジギャグ。瑛、22歳なんて嘘でしょ?本当は52歳なんじゃない?」
「それなら朱里も52だぞ。同い年の幼馴染なんだから」

ギャーギャー言い合う二人の様子は気にも留めず、千代はケーキを切り分けて配る。

「奥様、どうぞ」
「ありがとう!」
「旦那様も少し召し上がりますか?」
「そうだな、せっかくのお祝いだしな」
「ええ。当の本人達はまだケンカしてますけどね」

昔の瑛と朱里が戻ってきたことに嬉しくなりながら、三人は笑い合った。
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