Good day !
そうこうしているうちに福岡空港が近づき、二人はランディングブリーフィングを行う。

予定通り、今度は恵真が操縦して着陸することになった。

TODと呼ばれる、3度の角度で着陸するための降下開始点や進入方式を確認すると、大和が恵真に告げた。

「You have control」
「Roger. I have control」

恵真はキリッと顔つきを変えて操縦桿を握る。

順調に高度を下げ、やがて最終着陸態勢に入った。

「Gear down」

ランディングギアを下ろし、無事に固定されたことを緑の3つのランプで確認する。

「Three green, checked」

着陸決心高度の100フィート手前に到達し、大和が低く張りのある声でコールする。

「Approaching minimum」
「Checked」

恵真も確認して呼応する。

「Minimum」
「Landing」

着陸を告げた恵真は、滑走路の脇にあるPAPIと呼ばれるランプが、適正進入角を示す白白赤赤になっていることを確認しながら、慎重にスラストレバーを絞っていく。

『One hundred』

自動音声が地上までの高度をコールする。

『Fifty…』

『Ten』

メインギアが接地した。
スピードブレーキ・レバーがUP位置にあることを確認した大和が「Speed breaks up」とコールする。

恵真はリバース・スラストレバーを引き上げてスラスト・リバーサーを作動させた。

「Reverse normal」

機体は一気にスピードを落としていく。

しばらくして大和が「Sixty」とコールし、恵真はレバーを戻した。

「Autobreak disarm」
「Autobreak」

大和が管制官と交信するのを聞きながら、指定された誘導路を通って到着ゲートに入る。

パーキングブレーキをセットしてエンジンを停止させると、車輪がブロック・インされた。

恵真はキャビンのシートベルトサインをオフにし、ポンプ類や回転灯なども消した。

キャビンから続々と乗客が降りて行く。

ようやく肩の力を抜いた恵真に、大和が「ナイスランディング」と声をかける。

「あ…、ありがとうございます」

思わず頭を下げると、大和は真剣な表情で続けた。

「なんか、不思議な感覚だったよ」
「えっ?!私、何かミスしましたか?」

驚いて大和に向かい合う。

「いや、そうじゃないよ。本当に良いランディングだった。静かだし、危なげないし」

そう言うと大和は、少し考える素振りをする。

「ランディングが得意な人はたくさんいるけど、君のランディングは、なんていうか、雲の上にふわっと下りたみたいな感じだった。あんな感覚は初めてだ。すごく丁寧で女性らしくて…。あ、ごめん。いい意味でだよ?」

慌てて恵真の顔を覗き込む大和に、恵真は笑顔で、ありがとうございますとお礼を言った。
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