Good day !
やがてタワーの管轄外になり、アプローチにコンタクトするよう指示された。

少し前に、Good day!と和やかに別れたばかりのアプローチの管制官に再び話しかける。

「Tokyo Approach, JW 1098. Leaving 2600 climbing 3000」

「JW 1098, Tokyo Approach. Fly heading 200. Climb and maintain 4000」

恵真が復唱するやいなや、また次の指示がくる。

「JW 1098. Climb and maintain 6000. Expect ILS Yankee Runway 23 approach」

どうやら新しい進入方式が決まったらしい。

それは良かったのだが、恐らく他機との間隔を取る為だろう、せわしなく高度やスピードの変更指示が繰り返される。

もはやアップダウンの繰り返し、文字通り右往左往の状態だった。

10分が過ぎた頃、高度を1700フィートまで下げ、スピードをノーマルに戻すよう指示があり、ようやく事態は落ち着いてきた。

「JW 1098. Left heading 250. Cleared for ILS Yankee Runway 23 approach. And maintain 1700 until established localizer」

その交信を最後に、再びタワーへと管轄が移り変わる。

地震発生から15分後、ようやくタワーの管制官が着陸許可を告げた。

「JW 1098, Tokyo Tower. Runway 23. Cleared to land. Wind 180 at 13」

いつもの聞き慣れた指示内容に、恵真はほっとしてリードバックする。

「よし!じゃあ行こう。Cleared to land」
「はい、お願いします。Cleared to land」

大和はスムーズに操縦桿を操り、今度こそ無事に羽田空港の23番滑走路に下り立った。

「JW 1098. Turn right. Taxi via Romeo」

タワーからの指示を聞き、ゲートに向かう。

最後に大和は乗客に向けて、地震により到着が遅れたことのお詫びと、この先の道中もどうぞお気をつけて。皆様とご家族のご無事をお祈りしておりますとアナウンスした。

ボーディングブリッジを乗客が次々と渡り、キャビンが静まり返ると、大和と恵真は同時にふう…と大きくため息をついた。

思わず二人で顔を見合わせて笑う。

「お疲れ様。長かったな」
「はい、お疲れ様でした。ナイスランディング」

すると大和は、恵真の顔を斜めに覗き込みながら話し出す。

「なあ、俺達って最強のコンビだと思わないか?多少の事では動じないよな、もう」
「ふふふ、そうですね。でもキャプテン、どうして管制官の指示の前にゴーアラウンドを決めたんですか?地震って分かったんですか?」
「ん?ああ。PAPIがなんか揺れて見えてさ。地震なのか、それとも俺の目に異常が発生したのか、どちらにせよ着陸は出来ないと思ったんだ」

恵真は納得しつつ、感心する。

「そうなんですね!PAPIで気づくなんて、さすが佐倉キャプテンです」

管制官の指示があったのは、タイミング的にちょうどギアが接地する頃だった。

もし大和がひと足先にゴーアラウンドしていなければ、地震で揺れている滑走路にランディングし、大変な事態を招いたかもしれないのだ。

「この便が佐倉キャプテンで本当に良かったです」
「お前こそ。いきなりゴーアラウンド告げられたのに、普通に返してたよな」
「それはまあ。いつも、そうなるかもしれないと思ってますから」
「そうだけど、いざとなると多少は焦るのが普通だぞ?ガタイのいい大の男でも、ゴ、ゴーアラウンド?!とか聞き返してくるやつもいる」

妙に高い声のセリフを再現する大和に、恵真は思わず吹き出して笑う。

「そうなんですか?それはなんだか可愛らしいです」
「可愛いか?いい年の男だぞ?」
「だから余計に可愛らしいです。ふふふ」

つられて大和も頬を緩めた。
恵真が少し元気になったように見えて安心する。

「さてと!じゃあ降りますか」
「はい。お疲れ様でした」
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