Good day !
「藤崎、お前は年頃の女の子だ。お前がその気になればいくらでも恋愛出来る。それに野中さんにも言われただろ?大いに恋愛して、人生を生き生きさせろって」
「はい。でも私にとっては、恋愛の方が操縦より難しいです」
「おいおい、何を言ってるんだ?そんなに深く考える必要ないぞ」
「だけど、どうしても想像つかないんです。自分がどんな恋愛をするのかなんて。自分に女性としての魅力があるとも思えません」

大和は恵真に向き直る。

「藤崎、お前は充分魅力的な女性だ。自分の夢に向かって、ひたむきに努力している。何に対しても真っ直ぐで一生懸命だ。そんなお前が恋をしたら、きっと大事にその恋を育てていくんだと思う」

大和は心の中で考える。
恵真には、ファーストキスの相手と結ばれて欲しい。
恵真ならきっと、生涯ただ一人の人を想い続けるだろう。
悲しい失恋など味わって欲しくない。
愛する人と一緒に、いつも笑顔で幸せでいて欲しい。
そして…
自分が恵真を幸せにしたい、と。

「藤崎」
「はい」
「飛行機に向けるお前の純粋な眼差しを、少し俺にも向けてくれないか?飛行機のことでいっぱいの頭の中に、少しは俺のことも考えてくれないか?そしてその時、もし俺と一緒に過ごす時間が想像出来たら…。その時は俺とつき合って欲しい」

恵真は大きく目を見開いて大和を見つめる。

「私が、キャプテンに目を向けて?」
「ああ」
「佐倉さんのことを考えて?」
「うん」
「佐倉さんが、私のそばにいてくれるの?」
「そうだ。いつだってそばにいる」

恵真の大きな瞳から涙がこぼれ落ちる。

「なんて幸せなの…」

たまらず大和は恵真を抱きしめた。

「お前こそ。なんて純粋で、なんて可愛いんだ。大切にする、一生。必ず幸せにしてみせる」

そして恵真のきれいな瞳を覗き込む。

「お前が好きだ。恵真」

切なげに目を潤ませた恵真が頷く。

「私も。佐倉さんのことが大好きです」

大和は恵真に優しく笑いかけると、そっと顔を寄せてキスをした。

心の中がじんわりと温かくなり、切なさにキュッと胸が小さく締めつけられる。

それは紛れもなく、幸せなキスだった。
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