隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
かわいくない後輩
お兄ちゃんが社長に就任して三ヵ月。
私はいつものように秘書課での勤務を続けている。
入社してからすでに4年が経ち、当時主任だった隼人は秘書課長になり、何も知らないお嬢さんだった私も隼人をはじめとする先輩たちに鍛えられ一人前の秘書に育てられた。

一条プリンスホテル秘書課には20人ほどの女性と、隼人をはじめとする数人の男性スタッフがいて社長をはじめ重役たちの業務をサポートしている。
そのうち10人ほどは各重役室執務室に隣接する秘書室で勤務に就くため、秘書課の部屋に常駐するのは十数人。
どちらかというと重役付きの専属秘書が花形で、ここに残るのは実務を司る裏方の印象がある。

「高井さん、川村さんから電話よ」
「はい」

そうこうしているうちに、また電話だ。
重役たちに同行しての外出やお客様の対応がない分、書類の作成やデータ解析などの事務仕事を頼まれることの多い秘書課の勤務。
私は黙々と作業することが嫌いでないから、苦痛とは思わないけれど・・・

「社長から頼まれた書類作成ですが、私には無理なのでお願いします」
今日もかかってきた現社長であるお兄ちゃんの秘書、川村唯からの電話。

はぁー。
私はつい小さくため息をついた。

彼女は一年前望愛さんの退職が決まったのと同時に採用になった新人で、年齢は私と同じ25歳。
見た目はかわいいし物静かで男性受けも良くて女子の先輩たちの間でもうまく立ち振る舞えるいい子だと思う。
しかし、私や同世代の女子の前では露骨に態度が違う。

「無理って言わないで自分でやってみなさいよ」

頼んできたのはお兄ちゃんに依頼された資料の作成。そんなに難しいことではないしやり方だけでも覚えておいた方がいいと何度も教えているのに、また私に丸投げしてきた。
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