新くんはファーストキスを奪いたい



「いち、新くん?」
「心配だから、家着いたら連絡して」
「え〜まだ夕方だし私もう高校生だよ? 意外と心配性なんだね」
「うん、鞠は心配。本当は家の前まで送り届けたいし」
「えっ⁉︎」



 その言葉にまたしても気持ちを揺さぶられた鞠が、ほんのりと頬を赤く染める。
 しかし、それを誤魔化すようにして新を咎めた。



「そ、そういうこと言わないのっ」
「なんで?」
「なんでもだよ、じゃあ明日学校でね!」



 バイバイ!と強めに言って改札口を通った鞠は、振り返ることなく駅のホームへと続く階段を上っていった。

 新のことだから今みたいな無自覚な調子で、色んな女子に同じ言葉をかけているに違いない。
 新の放つその類いの言葉は、相手を恋に落としてしまうには充分すぎる効力を持つというのに。


 もちろんそんなことには気付いていない様子の新に対して、鞠は駅のホームで電車を待ちながら「罪作りな新くんの方が心配」と心の中で思っていた。



 一方で、鞠の背中が見えなくなるまで見送った新は、おもむろにスマホを取り出して鞠の連絡先を開いた。


 学校では常に友人達に囲まれてしまい、なかなか自由に行動することも話しかけることもできない。
 しかし連絡先さえわかれば、知りたいことはすぐ質問できるし待ち合わせだってできる。

 声が聞きたくなったら、電話だってできてしまう最強の情報を手に入れた。



「第一関門クリア、なのかな」



 キスをしたければ、好きになってもらうしかない。
 新の中では既に、鞠のファーストキスを奪うためのやるべきことが明確化していた。


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