新くんはファーストキスを奪いたい



(……うわ、すっごく懐かしい夢見た……)



 目覚めたばかりの鞠はボーッと天井を見つめたまま微動だにせず、やがてゆっくりと体を起こした。

 その耳に聞こえてきたのは部屋の窓を外側から濡らしてくる、この時期にはお馴染みの雨音。

 懐かしい記憶の夢を見た原因はこれか、と思っていると設定していたアラームが鳴って慌てて止める。

 すると、一件のメッセージを受信している知らせが待ち受け画面に表示されていて、鞠は指先で素早く開いた。



【おはよ。今日も鞠に会えるのを楽しみに登校する】



 初めてのデートをしてから二週間が過ぎ、あれから毎朝メッセージを送ってくる新。

 受信時間が鞠の起床よりも早いから「朝強い人なのかな?」とか「結構マメな人?」などと色んな予想をするのは楽しくて。
 そしてそれは、新のことをもっと知りたいと宣言した鞠にとっては嬉しいことでもある。

 何より自分への好意が継続していることも、このメッセージ一つで自然と伝わってきて、何だか顔の筋肉が緩む。



【おはよう。今日は学祭の出し物決める日だね!】
【あれ?俺の愛情表現スルー?】
【あ、ごめん……】
【いつになったら応えてくれるのかなー?】
【それも、まだごめんね】
【いいよ、焦らされた分だけ期待が高まるから】
「ええ⁉︎」



 メッセージの会話の途中で、思わず声を上げた鞠。
 すると最後に新から「また後でね」というスタンプが返ってきて、反論する機会さえも阻止された。



(新くんの気持ちは、ちゃんと伝わってるんだよ……)



 学校内では相変わらず会話する機会はあまりなくて。
 だけどこうして毎朝連絡を取り合っていると、あまり寂しさは感じない。

 むしろふと目が覚めた時、アラームが鳴るまで二度寝をするところを、ついスマホ画面を確認してしまうのは。
 新からのメッセージを楽しみにしている証拠だ。


 意外と真っ直ぐに言葉を伝えにきてくれたり、拗ねたと見せかけて実は待っていてくれているところも。
 知れば知るほどちゃんと芽生えているし、すくすくと育っている。



「あ、私も支度しなきゃ!」



 登校準備を始めた鞠の心の中では、新に恋をする準備も徐々に進められていた。


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