その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

プロローグ

「シャンティエ・ベルクトフ、そなたとの婚約は今日をもって解消する」

 ロムル王国の王立学園で開催されている生徒会主催のパーティーで、高らかにそう叫ぶのは、この国の王太子アレッサンドロだ。

 会場にいる誰もが、ピタリと動きを止め、辺りはしんと静まり返る。
 それまで楽を奏でていた楽団の人達も、驚いて演奏の手を止めている。

 パーティーは学園のダンスホールで行われている。
 王侯貴族が通う王立学園であるだけに、歴史も古く設備はかなりのものだ。
 学園の一角に迎賓館が建てられていて、そこでは定期的にパーティーが催されている。
 建物は二階建てで、一階にあるダンスホールには舞台が設置されている。

 アレッサンドロはパーティーを主催する生徒会の代表であるため、他のメンバーと共に舞台の上にいた。

 金髪の巻毛と、深い緑の瞳を持ち、甘いマスクにスタイルのいい体躯の彼は、王子と聞いて、殆どの人が思い浮かべる理想の王子だ。

 だが、その性格は決して理想とは言えないことを、ベルテは知っている。

 そして彼と直接言葉を交わしたことがある者なら、彼の性格がかなり破綻していることに気付く筈だ。

(ただの噂かと思っていたけど、本当に婚約破棄するつもりなのね)

 ベルテは今まさに婚約破棄を言い渡されたシャンティエ・ベルクトフ侯爵令嬢の様子を、固唾を呑んで見守る。
 パーティーということで、皆が思い思いにドレスやスーツを着ている中で、ベルテは学園の制服であるベージュのブレザーとスカートという出で立ちだ。
 なぜそのような格好なのかと言うと、ひとつは綺羅びやかなドレスが苦手だということ、そしてもう一つの理由は、ある目的のためドレスでは面倒だったからだ。

(馬鹿じゃないかと思っていたけど、本当の馬鹿だったわ)

 インペリアルトパーズの瞳に軽蔑の色を浮かべて、彼女は舞台にいるアレッサンドロに対して心の中で毒づいた。

「また殿下の気まぐれが始まった」
「ベルクトフ嬢も気の毒に」
「何もこんな場所で言わなくても。酷すぎる」

 そんな囁きがベルテの耳に聞こえてくる。 

 生徒会主催のパーティーは、年に一度学園内の生徒が一堂に会するもので、その運営は生徒会が行う。

 いずれ国の要職に就く者たちの多い生徒会では、このパーティーは言わば将来のための予行練習だ。

 そのため、学園の教授や役員は殆ど手を貸さず、生徒会を中心に早くから準備を行ってきた。

 しかし、今からパーティーが始まるぞという時、事件は起こった。

 生徒会を代表し、生徒会長のアレッサンドロがパーティーの始まりを宣言する。
 そしてそのまま間髪入れずに、重大発表があると言って、婚約破棄を宣言したのだ。


 普通、思慮深く思いやりがあるならば、こんな大勢の学園生たちがいる場所で、公開処刑のように婚約者に対し、声高らかに一方的に婚約破棄を宣言するような愚かな行動など取らない。

(まあ、その方がこちらも罪悪感を持たなくて助かるわ。でも、まだよ。彼女が現れないと)

 ベルテは他の生徒たちに混じり、パーティー会場にある舞台の上に立つアレッサンドロの様子を見つめた。
 

「婚約破棄の理由をお窺いしてもよろしいですか? アレッサンドロ様」

 そう言って、舞台の下からアレッサンドロを見上げるのは、たった今婚約破棄を告げられた張本人の、シャンティエ・ベルクトフ侯爵令嬢だ。
 真っ直ぐ伸びた白銀の髪に薄いブルーの瞳をしている彼女の美貌は眩しいほどだ。
 侯爵令嬢という高貴な身分の彼女は、しかしその毅然とした態度と整いすぎた顔立ちのせいで、「人形令嬢」などと影で言われている。
 今も、突然の婚約破棄を言い渡されたとは思えないくらい、毅然とした態度を崩すことなく、感情の籠もらない声で尋ねた。

「気安く名を呼ぶな。私は許した覚えはない。私のことは殿下と呼べ」
「では、殿下。私はなぜ婚約破棄をここで言い渡されなければならないですか?」

 それはその場にいる多くの人たちが思っていることだ。ベルテの周りにいる人達も、「そうよね」「酷すぎる」「私ならショックでその場で倒れてしまうわ」とヒソヒソ言い合っている。

 ベルテもそれには激しく同意せざるを得ない。
 婚約破棄をするにしても、二人きりのときに持ちかけるなり、礼儀をもって相手に伝えるべきなのだ。
 しかも王太子と侯爵令嬢との婚約は、個人の問題ではないのだ。
 
 
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