その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました
「あら、無粋なことを聞きましたかしら」

 その様子から、エンリエッタが何かを察しニマニマする。

「えっと、その、愛でる会のことよ。何をするの? っていうか、どんな人達がいるの?」

「僕も詳しくは知りませんが、会員と称している人達は令嬢だけでなくどこかの夫人やら、老若男女問わずベルクトフ小侯爵の美貌に惚れ込んだ人達が、自称『愛でる会』を作って、彼を見守っているそうです」
「老若男女……男性もいるの? そんな人達が彼を見守ってって……見るだけ?」
「なんでも、抜けがけして彼に近づいたり、目立とうとしたりすると、その愛でる会の人達に捕まるそうです。彼は皆のもので、誰か特定の人が不用意に近づくのを牽制しているそうなのです」
「なにそれ……え、てことは、婚約した私は?」
「確実にその人達から、標的にされるでしょう」
「そ、そんな……」

 女性に人気で、これまで婚約者のこの字もいなかったヴァレンタインがベルテと婚約したと噂が広がれば、少しは注目されるとは想像していた。
 しかし、それも最初だけで、すぐに収まるだろうとベルテは思っていたが、彼にそんな熱烈な支援者がいて、しかも複数いるなら、ベルテが思った以上に大騒ぎになるのではないだろうか。

「大丈夫よ。あなたは王女、この国の中でもすごく位が高い女性よ。そんな人達がいたとして、あなたに簡単に何か出来るわけがないわ」
「何かって……何かしてくるのですか?」
「以前、小侯爵の騎士仲間の妹が、兄を通じて彼を邸宅に呼んだ後、愛でる会の人達から抗議の手紙が殺到したそうです」
「抗議の……手紙?」
「それ以降彼女をお茶会に招待する人は誰もおらず、彼女は孤立してしまったそうです」
「う〜ん、でも私の場合、もともとお茶会に招待してくれる人はいないし」

 ベルテがそう言うと、三人が憐れむような視線を向けてきた。

「お茶を一緒に飲む人ならいるわよ。学園長も時々美味しいお菓子をもらったと部屋に呼んでくれるし、庭いじりをしにきている人とも飲むし、エンリエッタ様やディランとも…」
「それはちょっと違うかも」
「そうね、私やディランは家族だし、それはお茶会とは言わないわ。ただの休憩」
「ベルテ、そなたもう少し社交というものを学べ」
「別に仲良くない方とお茶を飲んで、実のない会話をする必要はないですよね」
「喉が乾いたら飲むわけじゃないのよ。そうやって親睦を深めて、繋がりを持つことも大事なことよ」
「な、何よ、皆で馬鹿にして、哀れみの目で見ないで」

 三対一で責められベルテは行き場を失って、涙目で逆ギレ寸前だ。

「そんなに言うなら、婚約なんてやめる。やっぱり無理」
「そんな我儘が通るか」
「でも……」
「でもも何でも、これ以上余の顔を潰すようなことをするな。何の不満もない相手などおらん。それに、その愛でる会も小侯爵の知らぬところで作られたもので、それを理由に断れるわけがないだろう」

 普段温厚な分、国王は怒るととても怖い。
 少し前髪が後退しかけた額に血管が浮き出て、今にも爆発寸前の父を前に、ベルテは口を噤むしかなかった。

「社交界というのは生き馬の目を抜くような場所だ。王女という身分はいくらか防御力のある鎧になるだろうが、自分でも戦う力を身につけなければ生きていけない。これくらいで怖じ気づいてどうする」

 社交界がどんなところか、ベルテも周りから聞いて知っている。
 これまで王女と言ってもベルテが脚光を浴びることはなかった。いつも彼女は話題の中心から逸れ、遠目に見ていた側だ。
 これからもそうだと思っていたが、多くの信奉者がいるようなヴァレンタイン・ベルクトフと婚約したら、そうはいかないのは目に見えている。

(どうして私、彼の口車に乗ったんだろう)

 彼の持ちかけた取り引きに魅力を感じたからだが、すでに後悔し始めていた。
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