その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

第七章 武闘大会

 二週間後、ベルテは父とエンリエッタ、そしてディランと共に、武闘大会の会場へと向かう馬車に乗っていた。

 あの日、初めてヴァレンタインに送ってもらって王宮に帰り着くと、エンリエッタが待ち構えていて、帰ろうとするヴァレンタインを引き止め、お茶に誘った。
 しかしエンリエッタの指示で制服からドレスに着替えさせられ来てみると、エンリエッタはさっさと引き上げてしまい、二人でお茶をする羽目になった。

 とは言え、侍女たちもいるので完全に二人きりではなかった。
 それどころかヴァレンタインをひと目見ようと、侍女長や下働きの者までずらりと並び、ベルテは彼女たちにぐるりと取り囲まれてるという状態だ。
 学園から帰ったらいつも研究室に籠もる予定が、すっかり変わってしまった。

「光栄です。ベルテ様を送ってきただけなのに、このようにお茶をご一緒していただけるなんて」
「小声なら周りには聞こえない筈です。だからそのようなこと、言う必要はありません」

 ベルテとお茶を飲むのが嬉しいと言ったことを言う彼に、ベルテは余計な気遣いは不要だと言った。

「一杯だけ飲むのを付き合えば、エンリエッタ様も納得します」
「エンリエッタ殿下が、何を納得されるのですか?」

 意味がわからないと言う風に、ヴァレンタインが聞き返す。

「エンリエッタ様がお茶に誘ったのですから、断れなかったのでしょうけど、一杯飲めば義務は果たせたと思います」
「義務?」

 聞き返してばかりで、ベルテの意図がまるでわかっていない様子に、頭が悪いのかと苛立ち心の中で舌打ちする。

「私とお茶を飲んでもつまらないでしょ。私は気の利いた会話も出来ませんので、無理に付き合う必要はありません」
「なぜ私がベルテ様といて、つまらないと決めつけるのですか。私がそのように思っているように見えますか」
「あなたの考えなんかわかりません」

 なぜあんなふうにベルテを可愛いとか言うのか。学園長との関係に嫉妬を抱くのか。ベルテが何をほしいのか知りたがるのか。彼の意図がわかるはずがない。
 
「気の利いた会話とは、どのようなものです?」
「そんなの、わかりませんよ。例えば世間の噂話とか、ドレスや装飾品とかの話とか、流行りの舞台の話とか?」
「別に私はドレスや装飾品に詳しくありませんし、最近どんな舞台が流行っているか知りません。ベルテ様がそのような話をされたいなら、勉強してまいりますが…」
「え、あ、いえ、私もそんな詳しくは……」
「そうですか。でも、決まった話題がなくても、こうしてお話が出来ていますよね。私はそれで十分ですし、一緒にお茶を飲めるだけで満足しております」
「だから、そういうの、止めてください」
「そういうの、とは?」

 世間の人は彼に騙されていて、彼は本当は頭が悪いのではないだろうかと、ベルテは疑いの目で見る。

「相手に気があると勘違いさせるような言動のことです。か、可愛いとか言ってみたり、一緒にお茶をするだけで満足しているとか…人によっては勘違いします」
「それは、ベルテ様が、そのように受け取っていらっしゃると言うことですか?」
「い、一般的な話よ。わ、私はちゃんと弁えています。そんな勘違いはしないわ」
 
 自分は違うと、ベルテは慌てて否定した。

「では、もっとはっきり伝わるように頑張ります」
「へ?」
「私もまだまだ勉強不足でした。ベルテ様に私の好意がまだ伝わっていないようなので、もっと伝わるようにします」
「ちょ、ちょっと待ってください、だ、誰の好意ですって?」
「ですから、私、ヴァレンタイン・ベルクトフが、婚約者であるベルテ様に対する好意です」

 ベルテは一瞬気を失いかけた。
 しかし、すぐにここまで徹底して好意があるように見せないと、彼の周りの人間は彼を諦めてくれないのだろうと悟った。

『兄は言い出したら何が何でも実行する人です。諦めてください』

 シャンティエの言葉が蘇る。
 きっと彼はやるならとことんやる主義なのだろう。

「わかりました。私もどうすればいいかわかりませんが、できるだけのことはします」
「はい?」
「とりあえず、武闘大会は参加します」
「本当ですか?」
「はい」

 公の場で一度仲のいいところを見せれば、数人ずつ相手にするより効果的だ。

「ベルテ様に来ていただけるなら、今年はいつも以上に切磋琢磨して優勝を目指します」

 ヴァレンタインに妙なやる気スイッチが入った。 
 
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