非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

プロローグ

チラチラと朝日が目の前をかすめるのを感じ、佐倉一毬(さくらひまり)はぼんやりと重い瞼を押し開けた。
ぼやけた視界に飛び込んで来る、眩しいほどの真っ白な天井。

一毬はまた瞼をぎゅっと閉じると、手と足をぐっと延ばしながら、大きなあくびをする。
なんという爽快な目覚めだろう。こんなに熟睡できたのは久しぶりだ。

まるで雲にでも寝ているかのように、全身を包みこむマットレスと肌触りの良い寝具。
枕は程よい高さで一毬の首を支えている。
そして鼻先をかすめる柑橘系の爽やかで甘い香りに、一定のリズムで聞こえる水音。

一毬はまた、うとうとと眠りに落ちそうになって、はっと慌てて飛び起きる。

――違う! ここは自分の部屋じゃない!

「ここ……どこ……?!」

一毬は全身を固まらせたまま、目線だけをぐるりと這わせた。
モノトーンで統一された寝室。
余計なものは何も置かず、心地よい眠りのためだけに用意されたような空間。
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