非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
優しい口調の倉田の言葉に、一毬は思わず呆然とする。

『俺も、前に進みたい。一毬に出会って、初めてそう思えたんだ』

確かに湊斗はそう言い、一毬の頬に優しく触れた。
でも、キスすらしてもらえない自分に、溺愛なんて信じられない。

「湊斗さんは、私に一ミリも手を出さないんです。だからそんな、大切だなんて……」
「そりゃあ、今はまだ何も解決してないからね。そしてこの原稿は、一毬ちゃんへの“溺愛宣言”であると同時に、湊斗が立ち向かう相手にとっちゃ“決別宣言”なんだよ」
「……決別?」
「そう。でもね、当然一筋縄でいくような相手じゃない。これから状況はさらに悪くなるかも知れない」

倉田はそう言うと、会場の後方席にいるスーツ姿の数名の男性に目をやる。
TODO(トウドウ)の社員ではない。
招待客の席にいるということは、菱山の関係者だろうか。

倉田は目線を一毬に戻すと、小さくウインクする。

「それでも湊斗が決意したことなら、俺は湊斗の代わりにその宣言をする」
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