非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

真実

「牧さん!」

次の日の朝一番、メモ用紙を握り締めた一毬は、ノックもほどほどに社長室に駆け込んだ。
スマートフォンを耳にあてていた牧は、一毬を見た途端、困惑した顔つきのまま手を下ろす。

「社長と連絡が取れないんです。朝から会長に呼び出されているんですが……。今朝、何か言っていましたか?」

一毬は牧の問いかけに、大きく首を横に振る。

一毬が目覚めた時、湊斗の姿はベッドにはなかった。
昨夜、一毬と湊斗の心は重なったと思う。

だからこそ今朝目が覚めたら、湊斗が隣にいてくれるのではないかと思っていたのに……。
湊斗の姿がないことに気がついた一毬は、胸騒ぎがして慌ててリビングに行き、ダイニングテーブルに置いてあった、湊斗のメモを見つけたのだ。

“菱山宅に行ってくる”

一毬は握り締めていたメモ用紙を牧に手渡した。

「どういうことですか?!」
「私にもわかりません。でも、もしかしたら湊斗さんは、自分の想いを直接伝えに行ったのかも知れません」

牧の深いため息が静かに響く。

「もうこれは、社長の戻りを待つしかなさそうですね」

一毬は不安な表情のまま、小さくうなずいた。
< 207 / 268 >

この作品をシェア

pagetop