非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

それぞれが前へ

一毬が廊下を歩いていると、ちょうど会議室から出てくる楠木と一緒になった。

「打合せですか?」

一毬が声をかけると、楠木は小さく首を振る。

ウイルス騒動がひと段落した後、一毬は楠木のサポート業務から離れ、自分の仕事を任されるようになった。
席も移動し、楠木と挨拶はしても話をする機会は減っている。

「海外営業部に異動しないかって、正式に声をかけられたんだ。菱山の時にも、対海外企業とのやり取りは経験してたからね」

一毬は驚いて目を丸くした。

以前から楠木に、営業部へ異動の打診があったことは聞いていたが、海外営業部となると社内の精鋭が集まる部署だ。
きっと異動の話は、湊斗の耳にも入っているだろう。
菱山の件で一時は信頼を無くした楠木だったが、それでも楠木の働きを湊斗が認めたということだった。

「それで……どうするんですか?」

様子を伺うように見上げる一毬に、楠木はすがすがしい笑顔を見せた。
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