非・溺愛宣言～なのに今夜も腕の中～

最初の夜

「社長は会合に向かわれましたので、帰りは遅くなると思われます。部屋にあるものは、何でも自由に使ってよいとのことでした」

牧が車の運転席から淡々と声を出す。

「わかりました。ありがとうございます……」

一毬はバックミラーに映る牧の厳しい顔を見ながら、申し訳なさそうに首をすくめて下を向いた。

――牧さんって、絶対に私のこと嫌ってるよね。

牧が一毬を快く思っていないのは当然だ。
昨日道端で借金取りに囲まれたのちに倒れ、爆睡して迷惑をかけた上、湊斗の部屋に居座ることになったのだから。

「あの、牧さん。色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません。その……私はこのまま湊斗さんのマンションにいて良いんでしょうか……？」

一毬が上目遣いで顔を上げると、バックミラーに映った牧の鋭い視線とぶつかる。

「社長がそれでいいと言っておられるのですから、あなたが気にする必要はないと思います」