非・溺愛宣言～なのに今夜も腕の中～

最初の出会い

「お姉さんさぁ、わかってる？　借りたものはちゃんと返す。これが人の道理だろ？」

煙草臭い息を鼻先にかけられて、一毬は思わず咳き込むと顔をうつむかせる。
いかにもガラの悪そうな二人組の男たちは、こじんまりとしたドーナツ店の店内を一瞬で凍り付かせた。

「お、お願いですから……今日はお引き取り下さい。お客様にもご迷惑なので……」

一毬は店中の視線を集めながら、なんとか震える声を絞り出した。

「おいおい、お姉ちゃんよぉ！」

小柄な方の男が、ドスの聞いた声を響かせた。
その声を聞いた途端、店の奥にいたはずの店長が大きな荷物を持って駆けだしてくる。

「佐倉さん！　すぐ外に出て！」

普段はぽっちゃりしたお腹を揺らす穏やかな店長が、この時ばかりは機械のようにテキパキと動いている。
一毬は真っ青な顔をした店長に、半ば強引に外につまみ出され、店舗のすぐ隣の大きなビルの広場に連れていかれた。