一晩だけのつもりだったのに、スパダリ専務の甘い手ほどきが終わりません……なぜ?

「光莉」

 光莉が久志の姿を間違えるはずがない。光莉を包み込むような眼差し、落ち着きのある低い声。あの人は本物だと身体が叫んでいる。

「久志さん……?今日は仕事のはずじゃ……」
「婚約者の帰国日に仕事を入れるほど野暮ではない」

 久志は照れ臭そうに、スーツのポケットから手を出した。

「おかえり。よく頑張った」

 久志は光莉を労うように両腕を広げた。
 長旅の疲れも、貴重品の入ったスーツケースのことなど構わず、一目散に愛しい人の元へ駆け出す。

「ただいま!」

 光莉は久志にジャンプして飛びついた。
 久志に相応しい女性になれるだろうかと、膝を抱える日もあった。会いたくて会いたくてたまらなくて、泣き出しそうな夜をいくつも超えた。
 すべては今、この瞬間のための通過点。

「光莉、愛してる。私と結婚してくれ」
「はい……!」

 光莉がとびきりの笑顔で答えると、久志は人目をはばからずその唇にキスをした。
 二人の門出を祝福するように、どこからともなく拍手が送られる。
 光莉と久志は額同士をくっつけあい、照れ臭そうに笑い合った。







おわり

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