その道にひそむもの
 前までわたしが前に住んでた街には、こんなとこなかった。

 木ばっかりで家が建ってない道なんかなかったし、かと思ったらどこまでも塀が続くようなとこもなかった。
 最初見たときお寺かと思ったら民家だった。通学路に田んぼがあることもなかったし、外灯がほとんどないような山道もなかった。
 全然人が通らないような道もなかった。

 中学二年生の二学期の変な時期。
 親の転勤でど田舎に転校することになった。最初は都会から来た転校生をみんなおもしろがってたけど、私はそもそも華やかなタイプじゃない。話し上手でもないから、みんなにすぐ飽きられてしまった。
 たまに話し方が生意気とからかわれたりはするものの、無視してたらそれも飽きてたようだった。部活に入るのも微妙な時期だし、誰とも特別仲良くなれず、別に無視されるわけでもなく、もてあまされた感じになった。
 土地勘もなくて、一緒に帰る友達もいないわたしは、帰り道を色々かえてみたりして退屈をまぎらわせていた。

 今日は昨日気になったあのルートで帰ってみよう、考えながら学校を出て歩いていた。小さい山みたいなのをいつも迂回して帰るけど、小道があるのに昨日気がついて、明日はこっちからにしようと思っていたんだった。

「あ、矢口さん」
 信号待ちしていたら、声をかけられた。田舎だって信号くらいはあるのだ。
 顔を向けると、メガネをかけて、髪をひとつに結んだ制服姿の少女がいた。
 誰さんだったかな。見覚えはある。クラスメイトだ。はじめにワーッと話しかけてきたグループではなかった。
 名前を思い出せない、というか、多分知らない。突然話しかけられて、わたしはびっくりして、正直に言ってしまった。

「あのごめんね名前、思い出せなくて」
「あ、そうだよね。自己紹介したことないし。斉藤マコだよ」
 笑って教えてくれたのに今更動揺して、早口で、「あ、そうだ斉藤さんだよね、忘れてた!」と応えた。知らなかったんだけど。
「斉藤さんの家こっちなの? 同じ方向だね」
 何を言ったらいいか分からなくて、急いで続けた。
「うん、こっちをずっとまっすぐ」
「あ、じゃあ途中まで一緒かな」
「そうなんだ! こっち方面の子あんまり知らなくて、なんか嬉しい」
 嬉しい、と言われて舞い上がった。

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