甘い罠、秘密にキス


中学を卒業して、やっと桜佑から解放されたのに、奴が同じ会社だと知った時はまた私をいじめるために追いかけてきたのかと思った。

でも桜佑は入社してすぐ出世コースで本社へ。さすがにそれはただの思い過ごしだったわけだけど…。


「(…既に人気者って、どういうこと)」


朝からずっとオフィスが騒がしい。それは間違いなく桜佑の存在が原因で、突如現れた新しいリーダーに女子社員達がキャッキャと騒いでいる。意識したくないのに、奴が目立つから自然と視界に入ってしまう。

リーダー、高身長、顔も一般的に言えば良い方で、黒髪のセンター分けが似合ってて、確かに女子の求めるスペックを揃えてますけど。

なんなら時折笑顔なんか見せちゃって、クールな外見とのギャップに心臓撃ち抜かれてる社員もいますけど。

でもあの人、性格は悪いですからね!と、声を大にして伝えたい。

みんな騙されてるよ。あの笑顔の裏側は悪魔のような人なんだよ。

それとも離れている数年の間に改心したとか?実は今は仏のように優しい心の持ち主だったり?

思えば午前中の会議の時も、その後も。桜佑が私に何か仕掛けてくることはなかった。はじめまして作戦の効果かもしれないけれど、もしかするとこのまま何事もなく平和に過ごせたりして。

実はさっき田村リーダーに書類を渡そうとしたら「それは日向リーダーに渡して」とサラりと言われてしまった。

一緒に働く上で、ずっと避け続けるわけにもいかないし。話し掛けるなら今しかないのでは…。


「──日向リーダー…」


声が裏返りそうになりながらも、意を決してその名前を呼んだ。

ゆっくりと視線が重なった瞬間、思わず息を呑んだ。
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