甘い罠、秘密にキス
「女みたいって、よくからかわれてたから、男としての自信なんて元々なくてさ…だから佐倉ちゃんと付き合ってからも不安しかなかった。しかも佐倉ちゃん、やる事が俺より圧倒的に男前なんだよ」
「そう、でしたっけ…?」
「うん。結構力持ちだし、高い所の物も軽々取っちゃうから、お店とかで手が届かなくて困ってる女の人に声掛けてあげたり、そういうことろもかっこよかった。バッティングセンターに行った時は、俺と同じくらい打ってたし。これでも俺、スポ少でソフトしてたんだけどな」
あー…昔桜佑とよくスポーツで対決していて、どうしてもあの男に勝ちたくて、野球やバスケ、サッカーはかなり練習したからだ。まぁ、結局あの男には勝てなかったんだけど。
「あと、俺がトイレに行ってる間に会計済ませてた時はかなり驚いた。スマート過ぎて、思わず「かっこいい」って心の中で呟いたよ。恥ずかしい話だけど、男の俺が引っ張るどころか、佐倉ちゃんに勉強させられてばっかだったな」
ちょっと待って、確か少し前にもそれと同じことをして、桜佑に怒られたっけ。全然記憶に残っていなかったけど、私ったら藤さんにも同じことをしてたんだ。
今まで男性に間違えられていたのは、この見た目や、親と桜佑せいにしていたけど…どうやら自分の経験値の低さや知識の乏しさも原因の1つだったらしい。
反省しよう…。
「だから、最後も…」
藤さんが言いづらそうに口を開いたのを見て、何となく悟った。最後…それはきっと、私にとってトラウマになった、あの時のこと。
「あの時は本当にごめん。男として最低なことをしたよね…」
「……」
何か返事をしなくてはと思ったけれど、何もいい言葉が浮かばなかった。今もまだ心の奥の方に、小さな傷跡が残っているから。
「あの時は言えなかったけど、俺にとって佐倉ちゃんは初めての彼女だったから…その、初めてだったんだ。そういうのも。だから自信が持てなくて、幻滅させたらどうしようとか考えたら、あの先に進めなかった…」
「……」
「その後逃げるように別れて…傷付けてごめん」