甘い罠、秘密にキス


トイレではなく休憩スペースに桜佑を連れ出した私は、他の人に見られないよう彼を壁に追い詰める。……おかしいな、2週間ほど前にも同じようなシーンがあったぞ。


「ほんっっとに勘弁してほしいんだけど?なに速攻で周りに広めようとしてんの」

「だって本当のことだし」

「本当…のことなのかもしれないけど、周りに言っていい程の話じゃないというか…てかあれは何なの。一生の愛をどうとかって」

「お前、婚約の意味分かってる?」

「その言葉、そっくりそのままお返ししたいんだけど?」

「婚約ってのは一生の愛を誓った者同士がする契約らしいぞ」

「だとしたら酔った勢いでする契約じゃないと思います」

「俺は一生の愛を誓ったつもりだったけど?」


不意打ちの甘い言葉攻めに、思わず息を呑む。

かあっと赤面したまま言葉に詰まっていると「照れた顔、ちょっと女っぽくなってんじゃね?」と余裕の笑みを向けられ、慌てて顔を背けた。


「いじめのレベルが高すぎてそろそろ笑えない」

「人の愛情表現をいじめって言うな」

「……朝から疲れる」


なにこれ、私遊ばれてる?愛情表現というよりからかわれているだけでしょ。この男と喋ってたら寿命が10年縮まりそうだわ。


「てかあの薄らハゲに黙って好きなように言わせてんじゃねえよ」

「えっ、だっていつもの事だし、言い返したら角が立つし…」


あれ、もしかしてさっきの、課長から庇ってくれた?桜佑なりに私のこと心配して、私があそこから離れられるように敢えてあんな発言を…?


「それにしてもお前、やることほんと男前だよな」

「はい?」

「蜘蛛を手掴みするやつ、あんま見たことねえわ」

「別にそれくらい普通でしょ」

「周りのやつも“佐倉さんかっこいー”って言ってたぞ」

「…そりゃどうも」


若干笑いを堪えてる桜佑を見て、危うく奴のお腹にパンチを食らわすところだった。

前言撤回。庇うなんて有り得ない。私が男扱いされること、普通に楽しんでる。

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