甘い罠、秘密にキス

「…キャラ変し過ぎなんだって」


ボソッと呟きながら、絆創膏の貼られた手を見つめる。

そういえば幼い頃も、桜佑は私の怪我に気付くとこうして絆創膏を貼ってくれた。「どんくせーな」ってブツブツ言いながら、不器用な手つきで手当してくれたっけ。


「こんな小さな傷、大したことないよ」

「傷跡残ったらどうすんだよ。一応女なんだから気にするだろ」

一応(・・)って言うな」


甘い台詞を吐いたかと思えば、すぐにからかってくる。どこまでも意地の悪い男をじろりと睨みつつ、それでも「ありがと」と小さく感謝の気持ちを伝えると、桜佑は返事をするかわりに優しく目を細めた。


「お前、全然変わってねえよな」

「…何が」

「率先して動くとこ。そんですぐその場のヒーローになる。結局自分から男になろうとしてんじゃねえか」

「別にそんなつもりは」

「まぁそこがお前のいいとこだけど」


褒められてんのか貶されてんのか。
手当は終わったはずなのに、桜佑は再び私の手を取ると、私の指を自分の指に絡めて遊び始める。

一体何の時間が流れているのだろう。そう思いながらも、不思議とその手を払い除けることが出来ない。


「別にそのままでいいと思うけど、あんま無理すんなよ」

「大丈夫、無理はしてないよ」

「周りにとってのヒーローがお前でも、お前にとってのヒーローは俺だからな」

「…悪役じゃなくて?」

「俺のどこが悪なんだよ」

「どこもかしこも悪なんだって」


この人まさか、オスゴリラ発言を始めとする私に対するいじめを全部忘れたのではなかろうか。なんならこの婚約者って関係も、私からしたらいじめに近いのに。


「なんかあったら俺のこと呼べよ。他のやつ呼んだら即婚姻届提出するからな」

「脅しのレベルが高すぎるし、今のあんたならやりかねないから怖いわ」

「特にあの男はダメ。富士山とかいうやつ」

「藤さんね。誤字だと思われるからちゃんと呼んで」

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