甘い罠、秘密にキス
こういう時、自分は女なんだと痛感する。男の人の力には勝てないから。
「もう…、いいっ…て、」
キス自体は触れるだけのフレンチなものだけど、何度も何度も重ねられる長いキスに頭がくらくらして、ここがオフィスだということを忘れてしまいそうになった。
何とか顔を背けて桜佑の肩に顔を埋めると「もう終わり?」と耳元で囁いた桜佑は悪戯っぽく笑う。
もう充分だ。こんなキス初めてで、頭がふわふわしてる。
少し前まではこの男とキスするなんて絶対に考えられなかったのに、相手が桜佑だということも忘れて身を委ねそうになった自分が怖い。それくらい、桜佑のキスは驚くほど心地がよかった。
「…ここ会社なんだけど」
「誰も見てないから大丈夫だろ」
「そういう問題じゃないでしょ」
「てことは、会社以外でならしていいんだな」
「別にそうは言ってないけど」
上手く丸め込まれそうになり焦る私を見て、桜佑は吹き出すように破顔する。そして今度は耳元にキスをされて、そのくすぐったさに思わず身を捩った。
「まじで可愛い」
「からかわないで…」
言われ慣れていない言葉を恥ずかしげもなく放たれ、顔が熱くて堪らない。それなのに、拒めない自分がおかしい。
今の私は、この男に完全に翻弄されている。
「このボールペン、別に俺はお揃いで使い続けても構わないけど、お前が嫌って言うならとりあえずは家に置いておく」
「…うん」
「その代わり、次のお揃いは結婚指輪な」
気が早すぎでしょ。と唇を尖らせる私を見て、桜佑はまた優しく目を細める。
私達以外誰もいない、静かなオフィス。
「俺は結構本気だけど」と呟いた桜佑は、再び私の唇にキスを落とした。