紳士な俺様社長と離婚前提の契約婚!?

 ーーなんの罰ゲームよ。ふざけんな! このクズ男!

 こんな目に遭っている自分が惨めでしようがないし、見る目のなかった自分に対して腹が立って仕方がない。

 目の前のクズ男が、これ以上聞くに堪えない戯れ言を口にしないようにピシャリと言い放っていた。

「わかったわ。キャンセル料は全額出すから、私の前から今すぐ消えて!」

 そうして言い切ると同時に気づく。この婚約者の事を本気で好きではなかったのだとーー。 

 彼は同じ会勤める営業部のエースで、秘書課に勤める穂乃香の同僚が主催した飲み会に参加した際、一目惚れしたと言って告白されたのをきっかけに交際へと発展。彼が三十になったのを機に婚約した。

 婚約までしていたというのに、彼に対する感情は一瞬で冷めてしまっている。彼との別れを悲しいとも思わないし未練もまったくない。

 ーーこんなクズ男と一年近くもの時間を費やしてきたなんて、本当に情けない。クズ男の顔を二度と見たくない。関わりたくもない。

 そんな思いに駆られていた穂乃香には、冷静な判断能力などなかったのだ。

 収まりのつかない感情を持て余した穂乃香は、何とか気持ちを落ち着けたくて、家には直行せず、目についたバーへと誘われるようして足を踏み入れていた。
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