おともだち
最終話

多江

 私は栄司に声をかけることも忘れ、見入っていた。いつの間にか栄司の背中が小さくなってハッとする。今、せっかく栄司が一人だったのだから声をかけたらよかった。そう思って追いかけたが、栄司はすでに自分の部署に戻ってしまった様だった。

 さっきの女の人、誰だっけ。会社とは違う方向へ歩いて行ったけど……。ということは会社の人じゃないのかしら。じゃあいったいどんな関係……。
 あ!あの子、加賀美くんの後輩だ!そう気づいたのに、ますますすっきりしない気持ちになった。

『りっかちゃん』
 って、栄司、あの子の事下の名前で呼ばなかった?しかもイケメンだとか、告白だとか。『週末のためにお仕事! 頑張ります!』って言ったよね。聞き間違い?
 この前は『知らない子』だって言ってた。『会釈されて誰かわかんなくて会社の人かと思ってたわ』って。たまたま同じカフェにいて栄司はアイスコーヒー受け取って出て来ただけで。あれは嘘だったの?だって、この短期間で仲良くなるわけないし、一緒にランチして下の名前で呼ぶって……。別れ際のあの女の子のセリフ、週末会うような口ぶりじゃなかった?

 どういうことだろうか。私は嘘を吐かれたの?

 栄司という人がわからなくなってきた。小柴さんのことだって、先週はもう一緒にお昼行ったりしないと断ったって言ってたけど、小柴さんは自信たっぷりに金曜誘ってみようかなと言っていた。本当に断ったのかな。

 私の知ってる栄司は……気遣いもあって、私の意見をちゃんと聞いてくれるけど、自分もちゃんと楽しむ人。ゆるいようでしっかり考えているような、人だ。
 そう思っていたけど……。
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