おともだち
 もしかすると私は栄司を好きなのかもしれない。そう自覚はするけど、あくまで『かも』って話だ。だって、栄司を目の前にして『好き』って思うかわからないし。案外『そうでもない』って思うかもしれないじゃない?顔を見るまで判断するのはよそう。

 会社に着くと、つい栄司を探してしまう。目につくんだよね、栄司って。

 誰かと話している栄司の姿が目に入った。相手の女性が笑ってる感じから、仕事の話をしているわけではなさそうだ。……栄司って意外に女の人と雑談したりするんだ。あの最初の飲み会の感じだと、あんまり仕事以外で話さないんだろうなって思ってたんだけど。栄司の存在って私も含めみんなよく知らなくて、謎に包まれた人だった。だからこそ色んなイメージとか噂とかで私も『セフレ』なんて提案してしまって……。

 今までの栄司がどうだったか思い出すのに必死で気づけば二人をじっと見てしまっていたらしい。バチっと目が合って正気に戻った。
 栄司がそんな私にふっと笑って手を振って来た。それに気づいた隣の女性が誰だろうといった表情で私に一礼した。私は一瞬どうしようか迷い彼女にならって二人に軽く一礼をして慌ててその場から去った。

 一人になって息を吐く。
 はー……。何してるんだろう、私。絶対変だったよね、今。仲いいのかな、あの人と……。

「でっかいため息だな」

 急に後ろから声がして、ヒッと肩がすくんだ。

「そんなに驚かなくても」

 ゆっくりと振り向くと、眉を下げて笑っている栄司、その人だった。
 
「あ、その、いると思わなくて」

 知らず目が泳いでしまう。

「まあ、今来たところだからね」
「そうだね」

 一方的に気まずい……沈黙が続いた。
 
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