桜の下で微笑むキミの夢を見る



 この季節になると毎年、ほとんど一斉に咲き始めては、ほんの数週間で散ってしまう花。

 人々を魅了するのは、その刹那的な美しさがあってこそなのだろう。


 無論佑馬とて、皆と同じように桜の花は美しいと思う。しかし同時に、桜の花は──もう二度と会うことのできない幼なじみを連想させる花でもあった。


 窓を閉めた後、ふと思いついて部屋の隅の本棚の前に立った。


 本棚には、三年前から小説家として活動している佑馬の小説が何冊も並んでいる。櫻田佑馬といえば、デビューしてから短い期間で多くの名のある賞を受賞した、新進気鋭の作家として世間で認知されている。

 佑馬はそんな自らの著作には目もくれず、その横のほこりを被った写真立てを手に取った。


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