桜の下で微笑むキミの夢を見る



「もちろん今年も行く予定、なんですけどね。ただちょっと……いい加減立ち向かわないといけないことが一つあって。それでちょっと腰が重いと言いますか」


「……そうか」



 ぼやかした「いい加減立ち向かわないといけないこと」について詳しく聞かれたらどう答えたものかと思ったが、ありがたいことに卓はただ短く相槌を打つだけだった。あまり踏み込まれたくないことを察したらしい。



「新刊発売祝いだ。今日は俺が奢る。好きなだけ食え」


「え、悪いですよ」


「言っておくが俺は結構稼いでる。たまには格好つけさせろ」



 墓参りの話題で佑馬の表情が少し暗くなったため、後ろめたさを覚えたのだろう。卓はそう言ってまたにやりと笑った。



「……じゃあ、レモン酎ハイとたたききゅうり、あと唐揚げを」



 少し迷ったものの、佑馬は先輩の厚意に素直に甘えておくことにした。



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