君が笑えるように

ルーキーと君

「これで、よし。」
鏡には、緩いラインの白いワンピースに水色のリボンが巻かれた麦わら帽子、かごのポシェット、貝殻のペンダントを身につけた私がいた。
ちなみにその鏡は、木枠にものすごく細かく様々な柄が彫られていてとても高そうだ。

1階に降りると、おばあちゃんはどうやらお風呂で洗濯をしているらしい。私は真っ白の靴を履いて、
「おばあちゃん、行ってきます。」
と、声をかける。
すると向こうから
「行ってらっしゃいー!気をつけるのよー」
ってちょっとくぐもった声が帰ってきた。
「はーい。」
と返事をして、家を出た。

「暑っつい…」
外は暑かった。まだ、朝だというのに太陽がギラギラ輝いていて、痛い。
まずい、日焼け止め塗ってくるの忘れた。
最悪、、
とか思いながらもしばらく歩いていると海が見えてきた。
透明度が高いこの海は、朝日がキラキラ反射してなんだかとても美しく見えた。





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しばらく歩いて行くと、まるで獣道のような道がある。そこを通るとさっき見えていた海に出ることができるのだが、地元民以外にはあまり知られていない。まぁ、そこまで大袈裟なものではないが秘境の浜辺みたいなイメージ。だけど、いつでも貸切状態だし優越感は半端ない。
まぁそんな感じで道無き道を抜けたら、まるで穢れを知らないのではというような真っ白の砂浜。海底まではっきりと見える海。そして、2人だけの秘密基地。
「あっちだったけ…?」
端の方に歩いていくと、懐かしい光景が見えてきた。
外から見るとほんとに分からない。
だけど、中は結構広い空間があるのだ。
葉っぱで隠れた入口をどけたら中が見えた。
「ワンっ」
「うわぁぁぁ」
えっ…?
足元には、ふさふさクリーム色の犬がいた。
どゆこと?
「あの、すいません。うちの子が…びっくりしましたよね、」
顔をあげると、とても優しそうな顔立ちの少年がいた。

「あ、いや、あの…はい。でも大丈夫です。」
よく見ると、結構美少年だな。
「それは良かったよ。こら、ルーキー、このお姉ちゃんを驚かせたらダメだぞ?」
そう怒ってるけど、怒り方優しいな。
「ルーキーって言うの?可愛いね。触って大丈夫?」
「はいっ!全然いいです!むしろ喜ぶと!」
「ありがとう!」
そう言って、ルーキーの頭に手を伸ばす。
毛がとてもふさふさで気持ちいい。
あったかい。
「初めまして、ルーキー」
「ワンっ」
「可愛いだろう?それに凄くいい子なんだ!」
って少年は言い出す少年も私には可愛く見えた。
「名前教えて貰ってもいいかな?僕は、理樹って言うんだ。」
「私は、麗々愛って言うの。」
「可愛い名前だな!じゃありぃちゃんって呼んでいい?」
え…りぃちゃんって言った?
りっくん…?
りっくん…そこにいるの?そこにいるのはりっくんなの?生きてたの?

「…りっくん……?」
「りっくんって呼んでくれるのか?なんか照れるな。」
そう言いながら彼は下を見た。
でも次に顔を上げると、急にびっくりした顔でとても動揺してるようだった。
「えっ、ちょっ、、麗々愛!どうしたんだ?大丈夫か?ごめん。もしかしてりぃちゃんって呼んじゃいけなかったかな」
「あ、」
そこに居るのはりっくんじゃない理樹くんだ。
「大丈夫…だよ」
なんとか声は出たがかすれてて、到底大丈夫には見えないだろうな。
案の定、
「ほんとか?大丈夫そうには見えない。」
そりゃそうか、
まともに声が出せなかったから。
でも君は、
「だって…麗々愛、お前は今、泣いてるんだぞ…?」
そう言ったんだ。
「…え、?」
頬を触ると確かに濡れていた。
あぁ、やってしまった。初対面の人の前で泣くだなんて、これまでなかったのに。
「ごめんなさい。ありがとう、帰ります。」
「待って、泣いてるんだよ?1人にさせたくない。1人は寂しいよ。」
なんでそんな事言うの。寂しいだなんて、わかってるよそんなこと。
理樹、あなたがとっても優しいってわかった。ルーキーを見ているあの目を見たら会って数分しか経ってない私でもわかる。そんな人だからこんなこと言ってくれるんだなってでもそれもとても幸せなんだとわかる。
でもね、私は見られたくなかった。弱いってバレたくなかった。誰かにとって私は弱い人だと思われるのが嫌だから。だから、さよなら。
「ごめんね、私は1人になりたい。」
「でもっ…」
そんな顔しないで、寂しくなる。優しさが欲しくなってしまう。あなたの優しさが本物か確かめたくなってしまう。
だからこそ、
「私は、あなたと居たくないの。」
私は、理樹に背を向けて、秘密基地を出た。
もう、会うつもりは無い。
ほんの短い時間でも少しでも安らぎをくれた。理樹とルーキーには感謝してる。ありがとうって本当に思う。
真っ白の砂浜に照り付ける日光は涙が蒸発しそうなくらいに熱かった。
「麗々愛っ!僕は待ってる。」
背後から、そう叫ぶ声が聞こえた。
その声は何故かものすごく懐かしかった。
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