弁当記念日
 初めて彼のお弁当を見た時、私はかなりの衝撃を受けた。

 その日は、お弁当を食べる時に誘ってくれるクラスメイトが風邪で欠席だったので、自分の席で一人で食べる事にした。

 隣の席の田村くんが弁当の蓋を開けた瞬間、なぜか不思議な匂いが漂ってきたので、つい、その中身をチラ見してしまった。

 私は、彼のお弁当を見た途端、電撃のような衝撃が全身を駆け巡る感覚を覚えた。

 見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて自分の机の上の色鮮やかな弁当に視線を落とした。
 
 私のお弁当は、いつも彩りが良くて可愛らしい。

 料理研究家気取りのママが、毎朝早起きをして作ってくれるお弁当だ。
 私はそんなイケてる美味しいお弁当を食べられる昼休みの時間が楽しみの一つだった。

 隣の田村くんのお弁当には、私が生涯見た事のないユニークさがあった。
 チラ見しただけの秒単位の時間で記憶出来てしまえるほどの、シンプルなくせにインパクトがある芸術作品とも言えるものだった。

 白ご飯の上に、鮎の塩焼きが豪快に丸ごと一匹乗っている。まるで白ご飯の上を泳ぐかのようにだ。
 白ご飯の余白には黄色いたくあんが、これでもかという程に散りばめられていた。

 シルバーと黄色のコラボレーションに、差し色は白。
 とても斬新なデザインだった。

 私が受けた衝撃は大きく、お弁当の味も感じられないほどだった。
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