地味婚

3.駆け落ち

「ほー。お前はお父さんのことをそんなふうに思っていたのか」

「は? なんでいつ来たの? まさか追いかけてきたの?」

「母さんとモーニングに来ただけだ」

 父はそれだけ言うと、目を一度閉じ、それからため息をついて目を開けてこちらを睨みつける。

「そんな甘い考えだから結婚を反対しているんだ!」

「はあ?! さっきと言ってること違うじゃん!」

「問題はお前にもあると言っているんだ」

 父はそこで言葉を切り、それから続ける。

「どうしても結婚をしたいというなら、勝手にしなさい」

「勝手に? まさか、縁を切るってこと?」

 私の言葉に、父は何も言わなかった。

 否定をしない、ということはそういうことだろう。
 どうしてそこまで反対するの、とか、娘を不幸にしたいの、とか、虎太郎が気に食わないの、とか。
 言いたいことは山ほどあったけど、父の冷たい表情を見ていたら、全部、無駄になるような気がした。
 そう思うと、なんだか怒りの感情がふつふつと湧いてくる。

 私は拳をぐっと握り、立ち上がって叫んだ。

「上等じゃないの! 駆け落ちしてやるんだから!」

 私が店を出ると、虎太郎が慌てて追いかけてきた。
   

 駅のホームで私はベンチに腰かけてぐったりとしていた。

「大丈夫?」

 虎太郎が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
 冷たい風が、怒りで火照った体に今は心地良いくらい。

「大丈夫。なんかごめん。駆け落ちとか、ドラマかって話よね」

 私が笑うと、虎太郎も笑う。

「俺、さっきの麗華の言葉、うれしかったよ。そこまで愛されてるんだなーって」

「虎太郎も私に愛されてるのかなって不安に思うの?」

「そりゃあそうだよ」

 虎太郎は「なに言ってるんだよ」と鼻の頭をかく。
 私は虎太郎の右手に自分の左手を置く。
 ほわっと温かい。

「どこ行くつもり?」

「とりあえず県外!」

 私はきっぱりと言い放った。

 ふと、視界の隅に、男性が見えた。

 なんとなく気にかかったけど、「まあ、いいや」と私は呟き、そのまま虎太郎と共に電車に乗る。
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