地味婚

4.不審者

「どうした? 顔色悪いよ?」

 虎太郎が心配そうにこちらを見ていた。
 私は『大丈夫だよ』と口を開きかけて、かすかな音に振り返る。

 一瞬、見えたモノに私の頭の中ですべてのパズルピースがはまったように、真実がくっきりと映し出されていく。

 ああ、そういうことか。
 父と母はそうまでして私の結婚を……。

 私はそこまで考えてから、大きな声で言う。

「よし! それでは、こうしよう!」

「なに?」

「今から、海に入ります」

「え? この寒いのに?」

「そう、寒いから海に入ると、死にます」

「え? え?」

 驚く虎太郎をよそに、私は海へと思いきり走り出す。

「麗華! やめろ!」

 背後で虎太郎の叫び声が聞こえる。

 それでも私は足を止めない。
 そのうち、波で靴が濡れてしまった。

 ああ、買ったばかりなのに。
 そんなことを考えつつも、私は海に足を入れる。
 その時だった。

「お前! なに麗華のことカメラで撮ってんだよ!」

 振り返ると、虎太郎が男性を睨みつけていた。
 男性の手にはビデオカメラが。

「いや、あの、これは、つい、そのドラマチックだなと思って……」

 しどろもどろの男性に、私は聞いてみる。

「あなた、誰ですか?」

「ただの通りすがりの者です」

「嘘。喫茶店から私と虎太郎のこと尾行してましたよね?」

 私の言葉に、虎太郎が「え?」と男を見る。

「いや、あの……。僕は怪しい者じゃないんです」

「そう言われると怪しい」と訝し気な顔で男を見る虎太郎。

 私は男に言う。

「両親に何を頼まれたんですか?」

「それは言えません」

 男の言葉に、私は男の手からビデオカメラを奪い取り、海の方へ走りだそうとする。

 しかし、四つの手に捕まえられ、私は動きを止める。
 男は観念したように口を開く。

「僕は田中という者です。実は……」
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