異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました! 黒髪&黒目というだけで? 皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか? ~これサダシリーズ1【これぞ我がサダメ】~

第6話 ただ教えただけなのに……。

 
「ここはこの町の救護院です。おおい、エルビス」

 トビアスさんが手を振った先で子どもたちに囲まれているエルビスさんが振り向いた。

「えっ、あっ、これは……」
「今、カワイサダメ様に町をご案内しているんだ」
「先日はお世話になりました」
「いえ、このようなところへいらっしゃるとは……」

 聞けば、救護院というのは、病院と孤児院と、その他助けを求めている人が気軽に立ち寄れるという間口の広い施設らしい。

「お兄ちゃん、だれぇ?」
「こんにちは、わた……、僕はサダメだよ。
 みんなはここで暮らしている子達なの?」
「ううん、僕は遊びに来ただけ」
「わたしも」
「あたしはここで暮らしてるよ。ラムとミトンもそうだよぉ」
「みんな仲がいいんだね」
「うん、いつも遊んでるの」

 子どもたちの顔は明るい。
 孤児だからといって、気兼ねや気後れした様子もない。

「ここでは孤児や行き場のない方をお預かりしていて、日々の暮らしの手助けをすることはもちろんですが、怪我か病気に限らず、ちょっとした気晴らしとでもいいますか、少し気持ちが弱ったときなど、誰でも気軽に立ち寄れるのが救護院なんです」

 建物のあちこちには子どもだけでなく、老いも若きもが自由に行き来している。
 それぞれが話していたり、ただ一人で佇んでいたりする。
 建物の周りには木々もあってちょっとした憩いの場的な雰囲気がある。

「あちらのご老人は可愛がっていた犬がなくなってからよく見えます。あちらのご婦人方はこの時間になると二人連れでいつも来て、旦那の愚痴をひたすらいいあっています。この子たちは働く前の子達で、親が働きに出ている間、よくここに来て子どもたちの遊び場になっています。ただ、ちょっと誰かに話を聞きてもらいたいという方もよく見えますよ」

 へえ、こんな施設があるんだ……。
 救護と言っても、ものすごくハードルが低いんだ。
 こんな施設が身近にあったら、嬉しいかも……。
 ていうか、逆にこういう施設って日本にはあんまりないかも……。

「この施設はエルビスさんが運営しているんですか?」
「こちらは国営です。わたしは医師として常勤しています」

 なるほど……。
 これってすごいことじゃない……?
 この時代の雰囲気でここまでの福祉的な発想があるなんて。

「これもハマル国から?」
「あ、いえ、救護院自体は古くからこの国に存在するものです」

 そっか。
 確かにこれは懐の深い立派な国王様だよ。
 現代日本にもこのホスピタリティ見習ってほしいくらいだわ……。

「エルビスさんから見て、なにか不便だったり不安に思うことってありますか?」
「そうですね……。人によるのですが、特にお金持ちの人々の健康についてでしょうか。お金のある人ほど仕事がら貴族と食事をとることが多いのですが、味が濃く塩分を取りすぎるのです。腎の臓を悪くする人が昔よりさらに増えたように思いますね」

 えー、やっぱり!
 あんな食事続けてたら病気にもなるよ。

「あとはやはり、アレンデル国王様のご容態でしょうか……。アレンデル国王もひょっとすると、腎の臓を病んでおられるのかもしれません」

 ああ……。
 それはそうかもしれないよね。
 死んだわたしのおじいちゃんも塩辛いものが好きで、高血圧で腎臓が悪かったんだよね……。
 お薬の処方と毎朝カリウムが取れる野菜と果物を生で取るように進められて……。
 あの頃は毎朝家族の誰かがおじいちゃんのために果物のスムージーを作ってた。
 こっちでも役に立つのかな……。

 わたしはノーマンさんに持ってもらっていた果物の袋の中を確認し、それをさしだした。
 キウイ、アボカド、パイナップル、レモン、オレンジ、バナナ。
 これらの果物はりんごと違って地球とも同じ見た目だったから自分用に買っておいたのだ。

「あの……果物を腎臓を痛めている患者さんに勧めてみてはどうですか?」
「果物ですか? ええ、まあ、塩分はありませんから普通に摂取しても良いとはいっていますが。なにか、効果があるのですか?」
「わたしのいた地球では、取りすぎた塩分はカリウムという成分を摂取することで、体外へ排出を促すことが知られています。
 これらの果物やいくつかのカリウムを多く含んだ野菜を生のままスムージーなどにして摂取してみてはと……。薬ほどではなくとも効果があると思います」

 エルビスさんの目が大きく開かれた。

「ぜひその方法を教えていただけますか!?」

 早速救護院の台所を借りることになった。
 ミキサーなんてないよね……。
 どうしようか。
 あ、このすり鉢は?

「薬の調合用ですが、よろしければどうぞ」
「ありがとうございます」

 すり鉢で、ひとまずキウイ、パイナップル、レモン、それから救護院にあったおそらくホウレンソウを一緒にすりつぶす。

「ひとり分がこれくらいの量です。できれば、しばらくは3食ともこういう生スムージーを食べるといいかもしれません」
「味見してもいいですか?」
「どうぞ。少しドロドロしていますが、それも食物繊維なので一緒に召し上がってください」
「お、おいしいてす……。これは、薬を飲むより苦ではありませんね。すりつぶすのは手間ですが、食欲のない人でもこれなら飲み込めます」
「先生ぇ、おれにもちょうだい」
「サダメお兄ちゃん、わたしにも、わたしにもほしい」
「ぼくもぉ!」
「あたしも!」

 子どもたちが欲しがるので、おじいちゃんのお気に入りのレシピをいくつかの披露した。
 満足感のあるパイナップルとアボカド。それからバナナとアボカド。
 美味しくて栄養たっぷりで子どもも大好きな味。
 オレンジ、レモン、パイナップルそれからこれも救護院で育てられていた赤しそのミックス。
 これは弱った胃腸の調子も整えてくれるから一石二鳥。
 あらかたの材料をつかいきった頃、エルビスさんの手元にはスムージーのレシピがしっかりとメモに取られていた。

「ありがとうございます、サダメ様。患者の皆さんに勧めてみます」
「人によってはアレルギーとかもあるかもしれないので、慎重に検証しながら試してみください。わたしに役立てそうなことはこれくらいしかありませんけど、地球ではきちんと効果が証明されていますから」

 いつの間にか、台所に人だかりができていた。
 スムージーにあぶれた小さな子がわたしの袖を引いていた。

「ぼくと、エリンまだもらってない……」
「えっ、あ……」

 袋を見ると青いリンゴしか残ってない。
 これじゃあただのリンゴジュースになっちゃう……。
 あっ、そうだ!

「気が付かなくてごめんね、えっと……君の名前は?」
「カルー」
「じゃあ、カルー君と、エリンちゃんには特別なものをあげる」
「特別?」
「なになに?」

 リンゴを8つにくし切りし、Vに切込みを入れてから半分ほど皮を剥く。

「これ、なんだ?」
「……あっ! ウサギ!?」
「そう!」

 キャハッとふたりが笑った。

「ああん、エリンにも見して!」
「これはぼくがもらったんだよう」
「エリンちゃんのもすぐできるよ、ほら」
「わあっ、これぇ、エリンの青いウサギ!」

 はあ、よかった……。
 こんなことくらいしかできないけど、子どもには喜んでもらえたみたい。
 周りにいた大人たちがざわざわとする。
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