異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました! 黒髪&黒目というだけで? 皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか? ~これサダシリーズ1【これぞ我がサダメ】~

第10話 ただ渡しただけなのに……。

 


 スポドリとミルクティーの実演が終わったので、早速ナイジェマさんにスポドリをつくってもらい、第3訓練場へ向かった。
 歩きながら話すアデル団長の声は、なんだか機嫌がよさげ。

「ありがとうございます、サダメ様」
「え?」
「私がやろうと思っていたことを先にやってくださいました。
 これから進めていく上でとてもやりやすくなったと思います」
「役に立てたなら良かったです」

 アデル団長が、にこにこ笑っている……。
 う、うわ……。
 す、すごい破壊力……。
 そんなに喜んでもらえて、こっちも目の保養をもらえてありがたいですけども。

「そういえば、ウィルから聞きましたよ」
「え?」
「ラブソースウィートというのが、とっても愛らしいとか」

 ……!?
 そ、そんなことまで報告されてるの……?
 ひえぇ、筒抜け。
 ちょっと恥ずかしいかも……。

「私にもやって見せてもらえませんか?」
「え、今ですか?」
「はい、ぜひ」
「いいですけど、かわいいのは本家本元のクライベイビーのアンリちゃんなんですよ?」
「サダメ様、わたくしも振り付けを覚えましてございますよ」
「あ、じゃあ、カリナさんも一緒に。せーの」

「「♪ ああ、だってそう~ 気になってるんでしょう~ Love so sweet! Yeah! ♪ 」」

 カリナさんとふたりでアンリちゃんの振りをコピー!
 ワンフレーズだけだけど、ちょっと楽しい!
 友達とMV見ながら振りを覚えて盛り上がっていたときのこと、思い出すなぁ。
 やっぱり推しは偉大だね、クライベイビー最高!

「わあっ、カリナさん完璧!」
「本当ですか? 
 実はドキドキしておりました! 
 うまくできておりましたか!?」
「もう、文句なしのパーフェクト!」
「うれしいですわ!」

 カリナさん、落ち着いた大人しめの人かと思っていたけどあんがいとノリが良い!
 思わずキャイキャイと盛り上がってしまう。
 わあ、楽しい。
 こういうの、大好き!


「これは……爆死だな……」
「……聞きしに勝る大爆発でしたね……」

 パチパチとアデル団長とノーマンさんが拍手をしてくれた。
 ふたりとも照れているのかバイアスなのか、はたまたほのぼのしちゃったのか、少し頬を染めて微笑んでいる。
 ウィル副団長も今の2人くらいほんわかしてくれればいいのに。
 ま、爆死とか爆発とか言ってますけど、本物はこんなもんじゃないから。
 アンリちゃんだけじゃなくて、メンバー全員がほーんとに素敵なんだから。
 スマホがあったなら、ここでも布教するのに……!

「誤解のないようにいっておきますが、アンリちゃんにのほうが100倍、いや1000倍かわいいですからね」
「……わかりました」

 アデル団長がものすごく優しく、ニコッと笑う。
 え……。
 今、急に胸がキュンて……。
 思わず、顔を背けてしまう。
 だって……。
 なんか、すごく温かい、柔らかい顔するから……。
 こ、こっちはイケメンの笑顔なんて、慣れてないし……!
 いきなりの不意打ち。
 突然、この前抱きしめられたこと、なぜか思い出してしまった……。



 ***



  第3訓練場。
 エーデル皇太子がいつものように励んでいる。

「エーデル皇太子!」
「……あっ、テ、テ、テイ様!」
「スポーツドリンクを持ってきたんですけど、いかがでしょうか?」
「えっ!」

 物珍しさなのか、他の訓練をしている子どもたちもわいわいと集まってきた。

「いかがです?」
「お、おお美味しいです……。なな、なにやらスキッと、でででも甘しょっぱく……」
「これから気温も高くなりますし、熱中症にならないように気を付けて下さいね」
「は、はははいっ!」
「あ、あのう……、僕らもそれ味見してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「うんっ!? ただの砂糖水じゃないぞ?」
「果汁の水割りでもない。すこしだけ塩味がする」


 そうなるだろうと思って多めに作ってもらったんだ。
 他の子どもたちはみんな不思議そうに飲んでいるね。
 でも、スポドリの普及は、運動の向上や健康維持に役立つ。
 体で感じてもらえれば、より効果的なはず。
 少し遠巻きにいたリンデル皇太子とヒューデル皇太子と目が合った。

「リンデル皇太子とヒューデル皇太子も、試してみませんか?」
「……っえ、い、いいのですか?」
「はい、もちろんです。どうぞ」

 2人が揃ってやってきた。
 慎重そうにそれぞれに口をつける。

「あれっ、なんだこれ、うまい」
「えっ、体にスッて入っていく感じ……」

 そう、それ!
 他の子どもたちもうんうんとうなづく。

「体が求めているものって、自然と美味しく感じたり、もっと欲しいって感じるようにできているんですよ。
 水分もただの水や煮出したお茶のように濃いものを飲むとき、飲みにくさや喉に張り付くような感じをうけたことはありませんか?
 あるいは、手足や顔がむくんだり、水を飲んでも飲んでもお腹がタポタポするだけで、喉が渇くというような状態になったことは?
 その点、このスポーツドリンクは体が欲している成分が電解質……つまり磁石のように必要なものが必要なところへ届く性質があるんです」
「で、でで、でんかいしつ……?」
「確かに、水飲むときなんか、飲みにくいときってあるな」
「俺はあのお茶がだめだ……」
「磁石のように……?」
「夕方になるとふくらはぎがパンパンになるけど、そのことかな?」
「人の体の中には、肉眼では見えないほどの小さな小さな働きがあるんです。
 ここにいる貴族のみなさんは日ごろから味の濃いお料理を召し上がっているかと思いますが、あまりにもたくさんの塩分を体に入れてしまうと、その小さな小さな働きが、もうこれ以上は手に負えませんと、働けなくなってしまうんです。
 ですから、これからはこれまでの慣例や風習に関わらず、体が本当に素直においしいなあと感じるものを召し上がってください。
 食べた後気分が悪くなったり、イライラしてしまったりする食べ物は良くありません。
 まして大人と子ども、住む環境や日ごろの活動量、生まれつきによって体は人それぞれです。
 自分に合わないと思うものを無理に入れて、ご両親から頂いたたったひとつの大切な体を痛めつけてはいけません。
 ですから、日ごろは塩分を控えた体が喜ぶお食事をにして、運動中足りなくなった塩分は今飲んでいただいたスポーツドリンクで補給してください。
 作り方は厨房のナイジェマさんにお伝えしましたから。
 あ、もちろん、必ずしもそうしろと言うわけではありませんよ。
 あくまで、ひとりひとり自分の体と相談して1番いい状態になるものを選べばいいというお話です」
「あのしょっぱい料理、やっぱり食べなくてよかったのか」
「俺も苦手だったんだ。喉が渇いて夜中に何度も起きちゃうんだ」
「すぽーつどりんく……」
「……ふうん、やってみるかぁ」
「家に帰ったら父上と母上にも話してみようかな……」
「星渡りのカワイサダメ様のいうことだもんな、やってみる価値あるよ!」
「うん、これ、まずくはなかったしな」

 まずまずの反応だね。
 子どもは自分の体に素直な分、納得も早そう。

「リンデル皇太子、ヒューデル皇太子もご自分の体を大切になさってくださいね」

 2人に呼びかけると、はっとしたように並んだ顔が赤くなる。

「……そ、そう、ですね……」
「う、うん……」

 まあ、あの兄の弟たちの反応としたらこんなものかな?
 ダメ押しで、神格化笑顔を送っておくか、エイッ。
 はわっと息を吸って、ふたりが明らかに動揺する。
 味覚は子どものうちに完成されるっていうから。
 君たち、ちゃんと美味しいものは美味しく食べられるような大人になりなさい。

 ふと、エーデル皇太子がわたしのすぐそばにやって来ていた。

「テ、テテ、テイ様、す、少しお耳を……」
「はい」

 しゃがんで耳を貸すと、子どもらしい距離感とさわさわした雰囲気がくすぐったい。
 ふふ、まるで子ども時代を思い出しちゃうな。

「き、き、吃音と、かか滑舌を、しし指導てくれる舞台役者が、みみ見つかりました。ち、ち近いうちに、くく訓練をか開始する予定です」

 わ、よかった……!
 やっぱりこの世界にも専門的な人がいるんだ。
 今度はエーデル皇太子の耳元に顔を寄せる。

「きっとエーデル皇太子なら克服できます」
「は、ははい……」

 急になんか熱いとおったら、エーデル皇太子の耳が真っ赤になっていた。
 か、かわい~っ!
 なんか、もう可愛いものを可愛がってしまうのはもうしょうがない。
 推しを推さざるを得ないのと一緒だよね。

「応援しています、がんばってくださいね」

 きゅっと両手を前で握って見せる。
 ガンバレ、エーデル皇太子!
 あっ、ますます赤くなってうつむいてしまった……。
 でも、気持ちだから、まあいっか。

「お、俺もがんばりますっ!」
「ぼっ、ぼくも!」

 リンデル皇太子、ヒューデル皇太子を皮切りに、子どもたちが率先して声を上げたり、手を挙げたり……。
 あはは、子どもに好かれるのって嫌じゃないかも。

「僕も!」
「おれも!」
「みなさんも、がんばってくださいね」
「はいっ!」

 部屋に戻ると、手紙が届いていた。
 あ、ヘンデル皇太子。

「音楽界のお誘いですね。ハマル王国から楽団を呼び寄せるそうです。楽しみですわ」
「またハマルですか……。まだフェイデル国の独自の音楽も聞いていないのに」

 これまでほとんどハマル国にしか星渡りの民が来なかったせいで、ハマル国のほうが文化的に上にあるという風潮が強い。
 そこまで文化的な侵略を許していいのか、正直疑問。

「あっ、そうだ。
 これまで来た星渡りの民のことや、その人たちが広めたことを記した本はないんですか?」

 アデル団長が顎先に手を当てた。

「この国で記録されている資料があるのですぐに持ってこさせましょう。
 ただ、どうしても星渡りの民の情報のほとんどはハマル王国が握っているので、我々が知ることのできたことはそれほどたくさんありません」

 早速その本を見せてもらった。
 星渡りの民の名前と性別はわかったけれど、その他の情報が断片的で、大して参考にならない。
 前回の星渡りの民が明治時代とするなら、中国はまだ清と呼ばれていた時代で、ヨーロッパとアメリカはたしか金融危機があったころ?
 なんとなく、もっと近代寄りに変わっていてもよさそうなのに、なんかフェイデル国もハマル国から来る文化も中世止まりっていう感じ……。
 なんだろう、150年どころか、600年くらい遅れてるっていうか。
 わたしの歴史的な素養がないせいもあって、そのへんがいまいちわからない。

 ドレスの違いはいまいちはっきりしないけど、でも剣や防具はなんというか、わたしでも違いがわかる。
 1800年代といえばフランスではナポレオンが戦っていた時代。
 それなのに、ここには銃らしいものがない。
 恐らく未だに重い甲冑を着て剣や槍でつつき合うようなそんなイメージ。
 うーん、計算が合わないんだよね……。
 学校教育もそれほど発達してないみたいだし……。
 この大陸へなにかをもたらすにしても、これまでの人はどういう視点でこの世界を見ていたのかな……。
 でも、これまでの人たちがどんな人だったかの、どんな人生を送ったのかは、正直気になる。
 幸せな生涯を送れたのかな……。

「1度ハマル国に行っていろいろ見て、確認した方がいいのかなぁ……。
 あ、でもまって……。地球と暦の進み方が違っているとしたら。
 地球の1年とこっちの1年の差がもしかして……」

 テーブルの上で指で筆算してみたけれど、それでも計算が合わない。

「あ、でもそもそも時間の進みが違っていたら……。
 こんな単純な計算じゃわかるわけないのか……」

 ……ああ、だめだ!
 ない頭をいくら使ってみたところで意味がなかった。
 こんなことならもっと勉強しておくべきだったなぁ。
 まさか異世界に来て時間の計算するなんて思わないから普通。
 今さら言ってもしょうがないけど……。

 そのとき、来客を知らせるメイドがやってきた。

「リンデル皇太子、ヒューデル皇太子が御目通りを希望されていらっしゃいます」

 連れ立ってきた2人の手にはそれぞれリボンに結ばれた枝がある。
 あれ、これはまさか……。

「サダメ様、どうか俺の気持ちを受け取ってください!
 う、受け取ってくださるだけでいいんです。
 エーデルと同じ、候補のひとりでかまいませんから……!」
「ぼ、僕も……! こ、こんな気持ちは初めてです。
 僕も大きくなったらでいいので、こ、恋人候補に入れてください……!」

 ええ~っ!
 なにこれ……。
 ちょっと、可愛い……。
 ふたりそろって、枝を切ってきてくれたってこと?
 バイアス効きすぎっていうか、この国の人は惚れっぽいの?
 でも、スポドリのことや健康のことを彼らなりに受け入れてくれたっていうことだよね。
 それは嬉しい。

「お2人のお気持ち、嬉しく思います」

 枝を受け取ると、ヘンデル皇太子のようには枯れはしなかった。
 リンデル皇太子とヒューデル皇太子の顔がぱあっと明るくなる。
 そっか、少しでも相手を思う気持ちがあると枯れないって本当なんだぁ。














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