異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました! 黒髪&黒目というだけで? 皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか? ~これサダシリーズ1【これぞ我がサダメ】~

第17話 ただ安心しただけなのに……。







「あらあら、まあまあ! サダメ様のご了解も得ずにお体に触れるなんて!

 ヘンデル皇太子ばかりでなくアデル団長まで頭が緩んだのですか!

 今すぐサダメ様かに離れないと、侍女長の怒りの平手打ちをお目見えいたしますよ!」

「申し訳ありません、サダメ様。

 兄上に抱きしめられるサダメ様を見ていたら我慢が効かなくなって、つい……」

「さあっ、早く、お離れ下さいっ! 

 まったく、あなた様はサダメ様をお守りするのがお役目でしょうに!」

「そっ、そうですよ、団長! 俺でさえ、我慢してたのに!」

「アデル団長やヘンデル皇太子がいくら王族の権威をふるったって、そんなの恋には関係ないんですからね!」



 ま、また……始まった……。

 時々、こんなふうにわたしの関心の奪い合いみたいな話になる。

 いや、こんなイケメン達に好かれるなんて、夢みたいな話なんだけど、正直今はまだそれどころじゃないっていうか……。

 ハマル国のことがあるし、それに、どこか自分の中で地球のことがまだ割り切れていない……。

 役目を果したら、いつかまた地球に戻れるんじゃないかって、思ってしまう……。

 帰れない可能性のほうが高いかもしれないのに、ここで一生を終える覚悟がまだない。

 だから、アデル様も王兵団のみんなも素敵だと思うけど……。

 まだ、恋愛なんてできないっていうか……。

 エルシーさんも結婚したのかな……?

 この世界で、だれか好きになって家族を持ったのかな?



「殿方のみなさん! サダメ様が困っておられます!

 サダメ様のお心を乱すものはこの部屋にはもう2度と入れませんよ!」

「あっ……」

「うわっ」

「うっ……」



 せっかくジュサイア皇太子がいるんだ。

 明日エルシーさんのことをもっと聞いてみたい。







 ***







 そういうわけで、翌日。

 ジュサイア皇太子とお茶をセッティング。

 同席するのはヘンデル皇太子と第1位のコーディア妃。

 ヘンデル皇太子の奔放さが影響して、皇太子妃の面々とはあまりこれまで交流がないんだけど……。

 でも、第1子ヨーデル君が生まれたおかげか、とても落ち着いているように見える。



「ヘンデル殿下と妃殿下も交えて、このような交流の場を持てることは幸いです。

 貴国のこの緑茶と抹茶なるもののお菓子もなかなかですね。

 風味とうまみがすばらしい。

 我が国の紅茶にも劣らぬ品だとみうけました」

「そうでしょうとも。

 我が国の緑茶に光を当て、このように新しい形にして普及させることに着目したのはサダメなのです。

 貴国の紅茶は我が国の風土にはあまり合わなかったので、今では貴族も平民も最も新しい抹茶に夢中です」

「ぜひとも我が国にも土産として持ち帰りたいものです」

「ええ、まだ品薄なので値段はそれなりにいたしますが、ジュサイア殿下の頼みとあらば用意いたしましょう」



 いつもはガサツでデリカシーゼロのヘンデル皇太子だけど、社交と商売についてはそれなりに心得ているらしい。

 わたしは黙ってお茶を飲みながらそれを聞いていた。

 みると、コーディア皇太子妃が視線に気づいて、にこっとほほ笑みかけてきた。

 あら……、バラ色の頬。

 女性は子どもを産むときれいになるって聞いたことがあるけど、本当なんだ……。



「時に、ヘンデル殿下とサダメ様とは、とてもお親しいご様子。

 もしや、サダメ様は貴殿の第3妃とならせられるのでしょうか?」

「えっ」



 びっくりしてわたしが顔を上げると、ヘンデル皇太子がぽっと顔を赤らめた。

 い、いやいやいや……!

 そこは赤くなるとこじゃないでしょ。

 コーディア皇太子妃の顔見てぇ!

 一瞬で氷河期!



「いや、名前を呼び捨てにされていらっしゃるので、もしかするとと思ったのですが」

「それは物の流れでそうなっただけで、深い意味は全くありません。

 それに王宮にお世話にはなっていますが、ヘンデル皇太子には友好以上のものを感じておりませんし」



 コーディア皇太子妃の為にもきっぱり否定した。

 ほっとコーディア皇太子妃が顔を緩めたので、わたしもほっとする。

 いらぬ衝突は回避したいもんね。

 一方のヘンデル皇太子があからさまにがっかりしている。

 びくっと震えた後、コーディア皇太子妃のほうを慌ててみたので、もしかしたら腿でもつねられたか、足でも踏まれたのかもしれない。



「そうでしたか! それなら安心です。

 これで気兼ねなく、サダメ様に求婚できます」



 ――はっ?

 まるで息をするのと変わらない温度で、ジュサイア皇太子がこちらを向く。



「実は私もそろそろ身を固めねばならぬ歳でして。

 皇太子妃選びのためのパーティを何度か催してはみたのですが、なかなかこれぞという女性と巡り合うことが敵わず。

 そんな折、ようやくフェイデル国にお渡りになられたサダメ様にお会いすることができ、ひと目見た瞬間に天啓をうけました。

 この方こそ、我が生涯の伴侶だと」

「なっ、なにをおっしゃいます! サダメは我が国の星渡りのお方ですぞ!」

「とはいえ、恋愛は自由でしょう? サダメ様の意志ひとつです」

「ぐぬぬっ……」



 ジュサイア皇太子とヘンデル皇太子が向き合ってじりじりとする。

 いやー、これはなんというか……。

 明らかな政略ですよね。

 ジュサイア皇太子には嫌なところはないというか、表面的にはしごくまっとうそうな雰囲気で固められているけど、自由といった恋愛について語るジュサイア皇太子にまったく温度が感じられない。

 たとえば、アデル様が向けてくるようなあの熱いまなざしのような。

 わたしはとりあえずにっこりしておく。



「ヘンデル皇太子、落ち着いて下さい。

 ジュサイア皇太子はきっとハマル国式のリップサービスをしてくださっただけですよ」

「ぬっ……!?」

「おや、私はこれでも真剣ですのに」

「ますますサービス精神が豊富なんですね。

 恋愛や結婚のお話になりましたから、ジュサイア皇太子に教えていただきたいんですけれど」

「はい、どのようなことでも」



 突然のようにジュサイア皇太子が流し目を使ってくる。

 イケメンがイケメンであることを自覚している目つきですね、ハイ。



「エルシーさんはハマル国でご結婚されたんですか? ご家庭をお持ちになられたんでしょうか?」

「ああ……。私のことではなく、エルシー様の事でしたか……。

 はい、エルシー様に限らず、我が国にお渡りになられた星渡りの民のみなさまはもれなく王家と婚姻いたしました」

「では、エルシーさんの子どもは今も王室に?」

「ええと……。そうですね、5代前のエマ様はひとり女の子をお生みになられましたが、皇女は幼くして亡くなりました。

 以来、エイダ様、エブリン様、エルシー様はお子には恵まれておりません」

「そうだったんですか……」



 この世界に来たことがやっぱりストレスだったのかな……。

 あるいは、地球と環境が違うからやっぱり何かが合わなかったとか……。



「では、家庭は持てなかったんですね……」

「しかし、王家に入ったことで、王族という家族の一員になりましたし、ハマル国民から親しまれ愛される存在となりました。

 サダメ様も我が国に来ていただければ、これまでの星渡りの民のように優雅で何不自由ない暮らしを手になさることでしょう」



 言っていることはわかるけど……。

 優雅で何不自由ないって、あの黄金のこと? 豪華なドレスのこと? 高品質のカップのこと?

 そんなもので人が幸せになれるの?

 エルシーさんやエイダさんやエブリンさんやエマさんは、幸せだったの……?

 わたしが知りたいのはそこなの。



「ジュサイア皇太子から見て、エルシーさんの最後はどうでしたか? お幸せそうでしたか?」



 ジュサイア皇太子の瞳がゆらっと動揺したのがわかった。



「そうですね……。わたしは晩年の間をともに過ごしただけではありますが……。

 とても知識に深く、洞察力に優れ、人を圧倒するほどの存在感をお持ちになる稀人でした。

 死んでもなお、人々に影響力を与えるような……」

「とても立派な方だったんですね」

「そうですね、誰にもエルシー様の真似はできないでしょう……」

「あなたから見て幸せそうでしたか?」



 ジュサイア皇太子が笑顔の奥になにか折りたたんでしまったのがわかった。



「はい、とてもお幸せそうな最後でした」

「そう……」



 ジュサイア皇太子がわずかに声音を変えた。



「それより、私はサダメ様のお幸せのほうが断然興味を惹かれます。

 サダメ様のお好きなものは何ですか?

 贈り物は気に入っていただけましたか?

 ハマル国はサダメ様のどんなご要望にもきっとお応えいたしますよ」

「そのかわりに、わたしはなにをすればいいんでしょうか?

 エルシーさんのように新しい音楽がご所望?」



 ジュサイア皇太子の目がきらりと光る。





























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