異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました! 黒髪&黒目というだけで? 皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか? ~これサダシリーズ1【これぞ我がサダメ】~
第18話 ただ告白しただけなのに……。
そう思ったら、わたしの脳裏に笑顔が浮かんできた……。
あ……。
会いたい……。
心が勝手に走り出したのがわかった。
この世界で生きると覚悟ができたから、もう心も体も自然と動き出したんだ。
自分でも不思議なくらいに意識がリンクする。
お城に帰ろう。
そして、会ったら、きっと伝えよう……。
***
お城へ戻ってきたわたしは、真っ先にその場所へ向かった。
背中を見つけると、もう考えるより先に口が開いていて……。
「アデル様……! わたしと……結婚してください……!」
訓練場でそれぞれ励んでいた兵士たちの驚いた顔が一気に集まる。
アデル様が口を開け、目をまん丸にして振り返る。
目が合うや、一気にかあっと赤く染まったのが見えた。
それを見ていたら、わたしも熱くなってきて……。
「サダメ様……、今、なんと……?」
「あ、あの……、急にごめんなさい……。
わたし、どうしても、今伝えたくて……。
じゅ、順番間違えました……!
結婚じゃなくて、その前に、好きですっていうべきだったのに……。
わたし、アデル様と家族になりたくて、つい先走っちゃって……」
「サダメ様……、私は……今夢を見ているのでしょうか……?」
その言葉と同時にアデル様の体がそっくり返ってバタンと倒れた。
「きゃ、きゃあーっ!? アデル様!?」
***
「う……」
あっ。
よ、よかった……!
アデル様の目が覚めた!
アデル様の個室には今、わたしのほかに王兵団のみんなと、カリナさん、エーデル皇太子がいる。
「サダメ様……?」
「はあ、目が覚めたんですね……、安心しました」
「どうしてここに……」
エーデル皇太子がベッドの脇から身を乗り出す。
「あ、兄上は、と、突然倒れられたのですよ」
「そういえば……、私は訓練場にいたはず……」
「もう、しっかりしてくださいよ、団長。
ぼうっとしてないで、ちゃっちゃっと返事したらどうなんです?」
ノ、ノーマンさん……!
そ、そんなあけすけにいわなくても……。
アデル様が、はて、というように小首をかしげた。
「返事……? なにか承認をすべき案件を取り溢していただろうか?」
え、え……?
あれ、まさか……、わたしの告白なかったことになってる……?
ひょっとして、倒れたとき打ちどころが悪かったの?
わたしもそうだったけれど、その場にいた全員が一斉に慌てた。
「だっ、団長!?」
「大丈夫ですか、アデル団長!」
「まさか記憶喪失!?」
「こ、このタイミングでか!?」
「そんなまさかですわ……!
アデル団長、倒れる前のことをよく思い出してくださいませ!」
「ああ、兄上! 覚えておられないのですか?
テ、テイ様から、ここ婚約を申し込まれたのですよ!」
アデル様の目が皿のように開かれ、わたしを見た。
突然何かを思い出したかのように、ぱっと赤くなると、おろおろと所在なく目が泳ぐ。
「た、確か、そういう夢を見たような……」
「団長っ、それ、夢じゃないっすー!」
「現実! げんじつですよ!」
「まあ、無理もないですよね……。あんな突然の告白」
「団長、お気を確かに、我々も聞いておりますゆえ」
「んまあ、アデル団長ったら……!」
「あ兄上、お思い出してください……。ぼ、僕もこの耳で、は、はっきり聞きました」
アデル様が真っ赤な顔をしてわたしを見た。
その目に驚きと混乱と期待とが入り混じっている。
倒れるなんてわたしもまさか思わなかったけど、それくらいびっくりさせちゃったってことだよね……。
「あの……、驚かせてすみませんでした……。
時と場所もわきまえず、わたしひとりで突っ走ってしまって……」
「い、いえ! ……いいえ!」
アデル様がまるで子供のようにぶんぶんと頭を横に振った。
ぽうっとした目でわたしを見つめ、ためらうように口を開いた。
「わ、私の夢ではなく……?
ほ、本当に……?
わ、私との結婚を望んで下さるのですか、サダメ様……」
「……はい……」
わあっとわたしたちの周りでみんなが声を上げた。
アデル様がようやく夢から覚めたみたいに笑った。
うれしい……!
気持ちが通じ合ったことも、みんなにこんなに祝福されることも。
わたし、ようやくこの世界の人間になるんだ……。
そんなうれしい予感が胸に温かくって……。
わたしも声を上げて笑った。
***
「おお、なんと! 喜ばしいことか!」
わたしとアデル様が並んで、挨拶。
アレンデル国王と王家、家臣の面々、そして夕食に同席しているジュサイア皇太子が驚きを表す。
急だもん、そりゃ驚かれるよね。
「急なご報告となりましたが、これからはどうか私達のことを温かい目で見守っていただければと存じます」
「まだまだ不勉強ですが、わたしもようやくここに腰を据えて生きていく覚悟ができました。
これからもよろしくおねがいします」
わあっと、みんなが席を立ち、拍手をしてくれる。
ジュサイア皇太子が少し苦々しいものを浮かべたのが少し気になるけど……。
「おおっ、フェイデル国、万歳!」
「今日はなんとめでたい日だ!」
「アデル様、サダメ様、おめでとうございます!」
「ついにサダメ様が御決心なされたわ! ああっ、どんな花嫁衣装になるかしら!
いまから楽しみでなりません」
「これで我が国も150年安泰だ!」
「それで、婚約式はいつになさるの!?」
「婚約どころか、すぐにでも結婚式を挙げればよいではないか!
サダメ様のお気が変わらんうちに!」
な……、そんな、心変わりなんてしないのに……!
でも、それくらい、フェイデル国の人たちにとっては、わたしが定住するかどうかは関心事だったっていうことだよね。
ジュサイア皇太子が席を離れて、こちらにやってきた。
アデル様にさっとその手を差し出した。
「麗しいサダメ様を目の前で攫われて、なんとも悔しい限りですが、ここは祝福をせずにはいられませんね。
おめでとうございます、今この世で最も幸福な男性はあなたでしょう」
「ありがとうございます、ジュサイア皇太子」
ぎゅっと握手をした後、ジュサイア皇太子がわたしにも手を差し出してきた。
「ご結婚なさるからといって、ハマル国への訪問を取りやめになさったりなさりませんね?」
「ええ、もちろんです」
「それを聞けて良かったです。
この世で一番新しく輝かしいこのカップルを我が国にお迎えできるのを楽しみにしております。
国をあげて盛大にお迎えさせていただきたいと存じます」
力強くぎゅっと手を握られて、その強さにすこしびっくり……。
ジュサイア皇太子の強い目が、その言葉通りではないなにかを感じさせる気がする。
戸惑いながら手を引くと、にこっと表面的な感じの笑顔を見せられた。
えと……、なんだろう、この感じ……?
お祝い気分に花咲いた夕食が済んで、わたしとアデル様は一緒に部屋を出る。
「なんだか、婚約や結婚を急かされて、戸惑ってしまいました……。
歓迎してもらえたのはうれしかったけど……」
「あ、あの、みな悪気があるわけではないのです。
ただ、やはりサダメ様がここにいて下さるということがはっきりしたので、舞い上がっているのです。
ハマル国にもそれを見せつけられるので、なんといいますか、牽制ですね……」
アデル様が少し困ったように眉を下げて笑った。
その後すぐ居直って、そっとわたしの手を取った。
「急かされたからというわけではございませんが、サダメ様……。
正式な婚約の議の日取りを父上とも相談して早く決めたいと存じます。
サダメ様が私と家族になりたいとおっしゃって下さって、本当にこんなにうれしいことはありません。
本当に……、この感動をどう伝えたらいいのか……」
感動って……。
そんな真剣な顔で、オーバーな……。
でも、うれしい。
「アデル様、わたしと一緒に温かい家庭をつくってくれますか?」
アデル様の顔がぶわっと赤くなった。
「そ、そ、それは……、お、男の私から言わねばならぬ事なのに……」
「あ、すみません……」
「い、いえ……。こちらこそ申し訳ありません。
ついぼうっと、見とれてしまって……。
ぜひ……!
婚約の議では、どうか私から改めてプロポーズさせてください……!」
「はい……!」
律儀なアデル様。
わたしたちは2人してくすくす笑い合った。
アデル様がわたしの手を引いて、ちゅっとキスをする。
照れたように笑う顔。
イケメンすぎ。
もう、本当に王子様なんだから……。