異世界に転生したら溺愛ロマンスが待っていました! 黒髪&黒目というだけで? 皇太子も騎士もみんなこの世界"好き"のハードル低すぎませんか? ~これサダシリーズ1【これぞ我がサダメ】~
第21話 ただ真似しただけなのに……。
翌日、ジュサイア皇太子の案内で、星渡りの民の墓地を巡った。
年代通りに並んだ石のお墓。
1番新しいエルシーさんのお墓は1番大きくて立派だった。
わたしは用意してもらったお花をそえて、手を合わせた。
エルシーさん……。
この世界でどのように過ごしてきたのですか?
この世界にどんな知識をどんな思いでもたらしたんですか?
ここで大切な人はできましたか?
この国のことが好きでしたか?
幸せでしたか?
聞いてみたきことがたくさんある……。
王家と結婚したということだったけど、王家のお墓とは別なんだ……。
これはこちらの風習なのかな?
わたしだったら、別々じゃなくて、アデル様と同じ王家のお墓に入りたい。
「では、黒水晶の噴水にご案内しましょう。
すぐ近くですよ」
墓地からすぐのところに、大きな噴水があった。
噴水の力で回転する球体は、目測でゆうに2メートル半はある。
それが天然の石の器の中でゆっくりとくるくると回っている。
これが、人の手によって作られたものではなく、大陸があったその時からこの状態で存在していたというのだから、驚くしかないよ……。
「すごい……。本当に大きいんですね……」
「はい、水も自然の力で果てしなく循環しているのですよ」
噴水の水は水路をとおってハマル国の町や村に送られているらしい。
でも、なんかちょっと殺風景かも……。
わたしは噴水の周りを歩きながら考えた。
噴水のそばには1本だけ木が生えている。
「この木はなんですか? これもはじめから生えていたんですか?」
「これは、私の受け継いだケラスス・サブヒルテッラの花木です」
「えっ、これが?」
フェイデル国の王家の庭園にも黒水晶の小さな噴水がある。
小さいといっても、この噴水に比べれば小さいというだけで、人の頭ほどの黒水晶が回っているのだからかなりのもの。
庭園は、その黒水晶の周りには15本の花木がぐるりと植わっている。
そうか……!
もしかしてここも?
……でも、それにしてはここはちょっと寂しいっていうか……。
噴水はすごいけど、周りには木どころか草もあまり生えていない。
ジュサイア皇太子のケラスス・サブヒルテッラだけが、ぴんと背筋を伸ばして緑の葉を茂らせている。
ケラススというのは、確かラテン語で桜っていう意味。
去年フェイデル国で見たケラスス・サブヒルテッラは春と秋の2度花をつけた。
つまり、地球で言ったら、十月桜(じゅうがつざくら)ってことなんだけど……。
「あの、他の花木は?」
「ここではない場所にあります」
そうなんだ……。
国によって花木の扱いが違うのかな……?
もう一度、ぐるっと噴水の周りを巡ってみる。
……あれ……?
やっぱりこの周りには花木があったんじゃ……?
なんか、スペース的にも、そんな感じが……。
でも、もし木がないなんてことがあったら、受け継ぐ王家の人がいないとか病気とか、そういうことになるわけで……。
国を守っていく上では大変なことになるんだよね?
てことは、違うか……。
他の場所にあるって言ってたし。
ここははじめから、こんな感じのところなんだ。
そう思いながら、ふと噴水に手を伸ばすと、突然ピカッと一瞬だけ光った。
「わっ……!?」
い、今の何……?
振り返ると、アデル様とジュサイア皇太子が驚きの顔を浮かべていた。
「サダメ様、今なにを……?」
「えっ!? わ、わたしはなにも……」
その時、ジュサイア皇太子が、あっと声を上げた。
足元を見、周りにぐるりと目を走らせる。
そのあとに続いて見れば、何もなかったはずの大地から何やらほっそりとした芽が出ている。
それも、噴水を取り囲むようにして。
数は全部で14あった。
「こ、これは……?
まさか、王家の花木では……?」
アデル様がつぶやくと、ジュサイア皇太子が、はっと息を呑んだ。
アデル様が静かな口調で続ける。
「遥かむかし、ハマル国の王家の花木は、かの黒水晶の噴水のそばにあったと聞きます。
それがいつしか、1本1本と別の場所に移され、今はたった1本ケラスス・サブヒルテッラを残すだけとなったとか……。
移された理由は知りませんが、この14の新しい芽は、守るべき花木のそれなのでは……」
え……、そうなの……?
やっぱり、はじめはここに木があったんだ……。
ていうことは……?
今の光でまたここに木が……。
ジュサイア皇太子がバッと顔を上げた。
「サダメ様……、さすがです。紛れもなくあなたは本当の星渡りのお方」
本当の……?
わたしとアデル様は顔を見合わせた。
しかし、はっとしたように、ジュサイア皇太子が口をつぐんだ。
え、……今の、どういう意味……?
「も、もしや、サダメ様のお力のお陰で、王家の花木が増えたのかもしれませんね……。
サダメ様の御利益が、我が国にももたらされたのでしょう。
ありがたいことです……!」
なんか……、そうなのかな……?
ジュサイア皇太子がにこっと上辺に笑みを張り付けた。
「さあ、お次はどこをご覧に入れましょうか?
そうだ、お懐かしがっていらっしゃった小豆の生産地にでもご案内いたしましょうか?」
「あ……。えっと、その前に、布や生糸の生産現場を見せてください。
贈っていただいたドレスや布地が大変優れていましたので」
「おおっ! そうですね!」
ジュサイア皇太子の案内で、綿花の畑や糸づくり、機織りの工房を見学した。
すべてにおいて、フェイデル国のそれよりもはるかに大規模な畑に工房に人手。
でも、大掛かりな繰糸機(そうしき)も紡績機(ぼうせいき)も力織機(りきしょっき)もない。
違うのは規模だけで、その製法はフェイデル国とほぼ変わらない、15世紀くらいの産業レベル。