結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
とりあえずはなんとかなったものの、この先を思うと気が重くなる。
もう二十八も後半となれば、母は崖っぷちだと思っているのかもしれない。
どうも今日は、珍しく占いが当たったようだ。

母との通話を終え、手早く出勤準備をする。
化粧はクッションファンデを塗って眉を引き、口紅を塗っただけ。
本当はそれすら面倒だが、イベント関連の部署に勤めているので、最低限のメイクは必要だ。
美容院に行くのが億劫で伸ばしっぱなしの黒髪は、邪魔にならないようにひっつめお団子に。
服は機動性重視の黒のパンツスーツを着て、私の出勤スタイルは完成だ。

「やっぱり無理だよ」

鏡の前で自分の姿をチェックして、苦笑いが漏れる。
母は私だって頑張れば結婚できると言っていたが、地味なうえにつり目で唇も薄く、怖そうな私となんて、誰だって結婚したくないだろう。

通勤電車に揺られて出勤する。

「おはよ」

「お、おは、よう」

最寄り駅を出たところで肩を叩かれ、びくっとした。
すぐになんでもないように、同期の矢崎(やざき)くんが並んで歩く。
私なんてすらりと背の高い彼の、胸までしかない。
当然、それだけ歩幅も違うのだが、彼はいつも私にあわせてくれた。
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