バイバイ、リトルガール ーわたし叔父を愛していますー
航と桔梗の家は東京の世田谷区にあった。
世田谷区といってもいわゆる高級住宅街ではなく、川崎市に近い多摩川がそばに流れる地域だった。
青い屋根の大きな木造一軒家に二人は住んでいた。
家の中に入ると綺麗に磨かれた廊下があり、一階にはリビングとキッチン、桔梗の部屋、そして客間があった。
全体的に古い造りだったけれど、どの部屋も小綺麗に整理され掃除が行き届いていた。
客間からはかすかに線香の匂いがして、これは桔梗が今は亡き夫に毎日手を合わせ供えるときの残り香だった。
リビングには大きな焦げ茶色のダイニングテーブルがあり、その中央にあるカゴの中にはすみれの為の蜜柑や菓子が沢山入っていた。
二階には部屋が3つあり、航の部屋、物置、そしてすみれの部屋も用意されていた。
ピンク色の水玉模様のカーテンに白い家具の、まるでショートケーキみたいに可愛い部屋だった。
べッドは花柄の布団カバーとシーツで揃えられ、机の上にはうさぎのぬいぐるみが置かれてあった。
スリッパも目覚まし時計もうさぎのキャラクターものだ。
部屋の中をキョロキョロと眺めるすみれの後ろで、航が心配そうに言った。
「どうだ?ちょっとファンシー過ぎたか?これでも塾の女子生徒に相談して用意したんだが。」
「すごく可愛いです!航君がこのインテリア考えてくれたんですか?」
「まあね。女の子の部屋なんて見当もつかないから自信ないけどな。不便なところがあったら言ってくれ。」
「大丈夫です。すごく気に入りました。」
「なら良かった。これからはどんなことでも俺に相談して欲しいな。俺に言いにくいことがあったらバアさんに言えばいい。困ったことがあったら一人で抱え込まないこと。いいね?」
「はい。」
すみれはその言葉を胸に刻んだ。
久しぶりにすみれと再会した桔梗は老眼鏡を外してすみれを抱きしめた。
「大変だったね。お葬式に出られなくてごめんよ。もう大丈夫だからね。」
すみれはコクリと頷いた。
「お腹が空いただろ?ちらし寿司を作ったんだ。一緒に食べよう。」
テーブルに着いたすみれは、桔梗と航と一緒に、まだ温かいちらし寿司を食べた。
「俺はこれが好きなんだよ。」
航は桜でんぶを自分のちらし寿司に山ほどかけた。
「すみれもいるか?」
航に聞かれすみれは頷いた。
すみれのちらし寿司にも桜でんぶがかけられた。
その桃色の食べ物は、口の中で甘く溶けた。
世田谷区といってもいわゆる高級住宅街ではなく、川崎市に近い多摩川がそばに流れる地域だった。
青い屋根の大きな木造一軒家に二人は住んでいた。
家の中に入ると綺麗に磨かれた廊下があり、一階にはリビングとキッチン、桔梗の部屋、そして客間があった。
全体的に古い造りだったけれど、どの部屋も小綺麗に整理され掃除が行き届いていた。
客間からはかすかに線香の匂いがして、これは桔梗が今は亡き夫に毎日手を合わせ供えるときの残り香だった。
リビングには大きな焦げ茶色のダイニングテーブルがあり、その中央にあるカゴの中にはすみれの為の蜜柑や菓子が沢山入っていた。
二階には部屋が3つあり、航の部屋、物置、そしてすみれの部屋も用意されていた。
ピンク色の水玉模様のカーテンに白い家具の、まるでショートケーキみたいに可愛い部屋だった。
べッドは花柄の布団カバーとシーツで揃えられ、机の上にはうさぎのぬいぐるみが置かれてあった。
スリッパも目覚まし時計もうさぎのキャラクターものだ。
部屋の中をキョロキョロと眺めるすみれの後ろで、航が心配そうに言った。
「どうだ?ちょっとファンシー過ぎたか?これでも塾の女子生徒に相談して用意したんだが。」
「すごく可愛いです!航君がこのインテリア考えてくれたんですか?」
「まあね。女の子の部屋なんて見当もつかないから自信ないけどな。不便なところがあったら言ってくれ。」
「大丈夫です。すごく気に入りました。」
「なら良かった。これからはどんなことでも俺に相談して欲しいな。俺に言いにくいことがあったらバアさんに言えばいい。困ったことがあったら一人で抱え込まないこと。いいね?」
「はい。」
すみれはその言葉を胸に刻んだ。
久しぶりにすみれと再会した桔梗は老眼鏡を外してすみれを抱きしめた。
「大変だったね。お葬式に出られなくてごめんよ。もう大丈夫だからね。」
すみれはコクリと頷いた。
「お腹が空いただろ?ちらし寿司を作ったんだ。一緒に食べよう。」
テーブルに着いたすみれは、桔梗と航と一緒に、まだ温かいちらし寿司を食べた。
「俺はこれが好きなんだよ。」
航は桜でんぶを自分のちらし寿司に山ほどかけた。
「すみれもいるか?」
航に聞かれすみれは頷いた。
すみれのちらし寿司にも桜でんぶがかけられた。
その桃色の食べ物は、口の中で甘く溶けた。