Far away ~いつまでも、君を・・・~

挨拶を終え、頭を上げた彩は改めて新郎となる男性を見た。それはやはり間違いなく、半年足らずの期間だったが、恋人だった人。自分が約束を破り、そのまま振った形になった、瀬戸大地だった。


複雑な思いで、大地の顔を見ると、フッと視線を逸らされた。やはり当たり前だが、彼の方も、彩に気付いている。


「本日、担当させていただきます廣瀬彩です。どうかよろしくお願いいたします。早速で恐縮なのですが、こちらの事前アンケートにご協力いただけますか。」


そう言って、彩は紙を差し出す。挙式希望日時や洋式か和式かの希望、更には披露宴の出席予定人数などをまずは把握する為のアンケートだった。


「わかりました。じゃ、大地書いて〜。」


彩の言葉に頷いて、大地を促した女性は鯉沼麻美(こいぬまあさみ)、年齢は24歳と見学申込みのメールには書かれていた。


「従姉が以前、こちらで挙式した時、私も参列して、素敵なホテルだなって思って。それにその時、担当して下さったプランナ-さんもすごくいい方だったと、従姉から聞いていたので。出来れば、私もこちらで思ったものですから、今日はお邪魔しました。」


大地には甘えた口調で話していた麻美だが、彼がアンケ-トを記入している間に、彩に話し掛けて来た時は、普通の社会人らしい話し方だった。


「ありがとうございます。それでしたら、従姉様からのご紹介という形にされたら、いくつかの特典もございます。お差し支えなければ、お名前を教えていただけますか?」


「はい。」


そんな会話を交わしているうちに、大地が記入を終わり、用紙を彩に戻した。


「ありがとうございます。ご希望は洋式ですね?それではまずチャペルから、ご案内させていただきます。」


アンケ-トを一瞥した彩は、そう言って、立ち上がった。


チャペルから披露宴会場、控室やトイレに到るまで、事細かく案内した彩。その後、席に戻り、いろいろと話をしたが、話すのはもっぱら麻美の方で、大地はほとんど口を挟むことはない。


「ねぇ、大地は廣瀬さんに聞いておきたいことないの?」


麻美にそう水を向けられても


「ああ。」


そう言って、優しい笑顔を向ける。その見覚えのある表情に、彩の心は思わず痛む。


「じゃぁ、もうここに決めようよ。」


「いや、もちろん、ここがダメって言うことはないけど、もう少し別の所も見てみようよ。」


そう言った大地の気持ちがわかった彩は


「はっきり申し上げて、すぐに決められる方はやはり少ないですから。新郎様のおっしゃる通り、別の施設をご見学されてからでも、こちらはもちろん差し支えございませんので。」


と営業スマイルで告げていた。
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