Far away ~いつまでも、君を・・・~

4月。年度切り替えは9月というアメリカ式が、世界のスタンダ-ドになっている中、もはやほとんど唯一、日本だけがこの月から、新年度がスタ-トする。


「私は誰がなんて言っても、春が別れと出会いの季節っていう今のままがいいな。」


「そうだよな。やっぱり日本人には、その方がしっくりくるよな。」


前々日に始業式が、前日に入学式が無事に終わり、颯天高校でも新たな1年が本格的にスタ-トしたこの日。


ちょうど車検の時期となり、珍しく電車出勤の尚輝と京香はそんな会話を交わしながら、登校している。


2人がこの高校の卒業生で、クラスメイトだったことは、既に多くの生徒が知っていることで、2人がこうして親し気に肩を並べて登校していても、特別奇異な目で見られることはない。


いかにも、駅で偶然一緒になった風を装って、学校への道を歩いている2人の本当の関係を知ってる生徒は


「おはようございます。」


後ろから追い掛けるように、挨拶して来た葉山千夏ひとりだけだ。


「おはよう、葉山。」


「葉山さん、おはよう。」


振り返って、挨拶を返した2人に


「お2人とも、ちょっと距離が近すぎますよ。」


コソッと告げた後、いたずらっぽい笑みを浮かべて、そのまま追い越して行く千夏。


「アイツめ・・・。」


そう口にして、一瞬苦笑いを浮かべた尚輝だが、すぐに表情を引き締める。


「葉山さんもいよいよ最高学年だね。」


「ああ、あと1年だ。」


軽やかな足取りで、前方に見つけた友人を追いかけて行く千夏の後ろ姿を見ながら、尚輝はつぶやく。


千夏は進級に伴うクラス替えの結果、引き続き尚輝が担任になった。法律が変わり、18歳は成人の仲間入りする年齢となり、多感なティ-ンエイジャ-でありながら、大人として扱われることになる千夏たち。そして、彼女たちのその後の人生に、大きな影響を与えることになる進路選択も待っている。


そんな重要な年を迎えた彼女たち高校3年生を、教師生活4年目で初めて担任として受け持つことになった尚輝。


「今年はきっと、長くて、でもあっと言う間の1年になる。アイツらにとっても、俺にとっても。」


正直、プレッシャ-はある。まだ俺には荷が重い、そんな思いが浮かんでくるのを抑えられないでいる。


「大丈夫、出来るよ、二階先生なら。」


そう言って微笑む「菅野先生」は、やはり尚輝にとっては心の支えであり、ただの同僚であるはずはなかった。
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