Far away ~いつまでも、君を・・・~
「でも、そのお客様は既に、申込金までいただいてるんですよね?」


「うん。」


「だったら今、お申し込みの時間帯で問題ないってことじゃないですか。」


「えっ?」


「だとしたら、今日のお客様を先にご案内しても構わないんじゃないですか?」


その静の言葉に、思わず彩は息を呑む。


「今、その枠をご案内すれは、確実に成約が1件取れるんです。別にキャンセル待ちされてるお客様に、無理にどいていただくという話でもないですし。だとしたら、今来場されているお客様を優先しても・・・。」


静の言い分に、一瞬唖然とした彩は、すぐに気を取り直すと


「本気で言ってるの?確かにキャンセル待ちのお客様からは、既に申込金はいただいてるけど、あくまで第一希望はこの枠なの。枠の移動は無料で可能ということをご案内して、ご納得の上で、お待ちいただいているの。それをそんな不誠実なことをしたら、私たちは信用を失ってしまうわ。」


言い聞かせるように言う。


「そうでしょうか?さっきも言ったように、キャンセル待ちのお客様には、あくまで既に別の枠でお申し込みいただいてるんですから、ご迷惑は掛けないはずです。だったら、問題はないと思います。」


静は譲らず、2人は判断を仰ぐように、課長を見た。視線を送られた課長は、一瞬困惑した表情を浮かべたが


「確かに成約は1件でも多く欲しい。でも、今回は彩の言ってることの方が正しいよね。」


と言った。その言葉に彩は頷き、静は不満げに唇を噛んだ。


「彩はすぐに、キャンセル待ちのお客様にご連絡して。静は戻って、お客様にその旨をお伝えして、少しお待ちいただいて。」


「はい。」


「わかりました。」


そして、彩はすぐに電話に取り付き、静は不満の表情を露にして、オフィスを出た。


彩の連絡はすぐにつき、是非お願いしますという返事をもらった。それは、ただちに静を通じて、待っていたカップルにも伝えられ、彼らは残念そうに、ベイサイドシティを後にした。


戻って来た静は、尚も納得いかないと言わんばかりに、頬を膨らませていたが、彩は全く動じることはなかった。


だが、この話は、このままでは終わらなかった。数日後、移動できたことをあれほど喜んでいたはずのカップルは、理由も言わずに申し込みをキャンセル。慌てて、静がお断りしたカップルに連絡したが、彼らもあのあとに回った式場で申し込みをしてしまっていた。


(ウソでしょう・・・。)


彩はさすがに、座り込みたい心境だった。
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