Far away ~いつまでも、君を・・・~
「ちょっと偉そうなことを言わせてもらうが、こっちの都合だけ押し付けて、それでうまくいくほど、どんな商売も甘くはないと思うぜ。違うか?」


「はい。」


「だからさ、絶対俺は彩は間違ってないと思う。自信もっていけよ。」


そう言うと、斗真はチラリと彩を見て、笑顔を送る。


「はい!」


その笑顔が嬉しくて、彩もパッと表情を明るくして頷いた。


それから、いろいろな話をしながら、彩のマンションに到着した時、時計の針は既に日付をまたいでいた。


「すみません、こんな遅くなってしまって。明日は斗真さんはお仕事なのに・・・。」


申し訳なさそうに頭を下げる彩。これからどんなに急いでも、斗真が帰宅するには、1時間では着かないはずなのだ。


「バカ、気にするな。」


そう言った斗真は、次の瞬間、運転席から彩の身体を抱き寄せる。


「斗真、さん・・・。」


一瞬戸惑い、顔を赤らめた彩は、だが吸い寄せられるように、斗真に身を寄せる。


「俺はこうやって彩パワ-をフルスペックで充填してるんだ。」


「はい・・・。」


「これで明日から、また頑張れる。彩。」


斗真に名を呼ばれて、見上げた彩の唇はすぐに彼の手に落ちるように吸い寄せられる。瞳を閉じ、それを受け入れた彩は、やがてやってきた斗真の舌を迎え入れる。


激しく求め合った2人。やがてどちらともなく唇を離して、見つめ合う。


「彩。」


「はい。」


「負けるなよ。」


「斗真さん・・・。」


「もし、どうしても我慢できなくなったら、ホテルなんか辞めちまえ。」


「えっ?」


「フリ-になっちまえよ。そして、職種は違うかもしれねぇけど、顧客第一主義を掲げて、2人で力合わせて一緒に頑張ればいい。」


そう言って、柔らかな視線で、彩を見つめる斗真。


「うん、ありがとう・・・。」


その視線と言葉が嬉しくて、彩は一段と彼に身体を寄せて行く。


やがて名残惜しそうに身体を離した2人は、見つめ合い、そしてまたそっと唇を重ね合うと


「おやすみ、彩。」


「おやすみなさい、気を付けて帰ってね。」


「ああ。」


彩は助手席の扉を開く。


ドアを閉め、笑顔で手を振る彩に、サッと手を上げ、斗真は走り去って行く。


(由理佳さん、斗真さんは変わってなんかいません。昔、私が憧れてた彼のままです。)


遠ざかる車を見送りながら、彩は思っていた。
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