Far away ~いつまでも、君を・・・~

思えば、今年が明けた頃、彩は充実していた。少なくとも、自分ではそう思っていた。


仕事は・・・職場の雰囲気はいいとは言えなかったし、課長ともしっくりいってるわけではなかったし、なぜか何かにつけて、自分と張り合って来る静の存在が鬱陶しくはあったが、それでもやるべきことはやり、着実に自分の責務は果たしている自信はあった。


それに、仕事で多少何かあっても、前の年の秋から付き合い始めた恋人、本郷斗真の存在が、彩の心を癒してくれていた。


自分も多忙な証券マンにも関わらず、仕事柄、土日祝日に休めない彩に合わせて、斗真は時間を作ってくれた。高校の2年先輩であった斗真は、彩にとって、当時まぶしい存在だったが、実際付き合って見ると、優しく自分を包んでくれた。


1日一緒にいられる機会は少なかったが、そのことで、彩に寂しさを感じさせないように、斗真は毎回心弾むデートコースを用意してくれた。ある時は車で少し足を延ばして、郊外のライトアップが輝く公園で、ある時は夜景の美しいレストランで、斗真は彩の隣で、前で微笑んでいた。


斗真に会うと、彩は自然と口数が多くなった。いろんなことを彼に話していた。それを斗真はにこやかに聞いていた。


「斗真さんは聞き上手だから、ついしゃべり過ぎちゃって・・・すみません。」


ある時、ふと我に返って、斗真に謝ると


「別に我慢して聞いてるわけじゃない。彩の話を聞いていると、楽しいんだ。それに彩だって、ちゃんと俺の話を聞いてくれてるじゃないか。」


とやっぱり優しい表情で答えてくれた。


やがてクリスマス、恋人たちの季節がやって来た。だがイブやクリスマス当日は、ホテリエである彩は休めるはずもない。結局、2人がやっとクリスマスデ-トを迎えられたのは、世間は既に仕事納めが終わり、年末休暇に入った頃だった。


その日、自宅まで迎えに来てくれた斗真の愛車に乗り込んだ彩。車窓から見える街並みには、クリスマスムードは既になかったが、それでも華やかな雰囲気に包まれていた。やっと、心置きなく一緒に過ごせる。2人は他に誰もいない空間を楽しんだ。


やがて着いたレストランでランチ。そのあと、海浜公園を寄り添って歩いた2人。冬の陽は、落ちるのが早い。街の景色は恋人たちを歓迎するかのように、急速に目にも鮮やかなイルミネ-ションを纏っていく。再び車上の人となった彩は


「とりあえず、チェックインしちゃおう。」


という斗真の言葉に、コクンと頷いた。
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