Far away ~いつまでも、君を・・・~
しかし、それからも2人のすれ違いは続き、声も聞くこともままならない状況となってしまい、心配のあまり、ついに彩は、翌日が休日の仕事帰りに斗真のマンションを訪ねることにした。


『来てくれるのは嬉しいけど、彩も忙しくて、疲れてるんじゃないか?それにたぶんその日も遅くなりそうだから・・・。』


「私は大丈夫だよ。斗真さんも疲れてると思うけど、心配だし、とにかくあなたの顔が見たいの。」


彩が訴えると


『ありがとう、俺も彩に会いたい。じゃ、悪いけど、部屋で待っててくれ。』


斗真も嬉しそうな声を出した。


当日、夕飯の買い物を済ませて、斗真のマンションに向かった彩。カギは年明け、双方の実家への挨拶を済ませた後に渡されていたが、実際に訪れるのは初めてだった。男性の部屋に入るのは、彩にとっては初めての経験。ましてや本人がいない時に上がり込むことに、余計に緊張してしまう。


ドキドキしながら開いた扉の向こうは、忙しさにかまけて、かなり乱雑になってるのではなんて想像していたが、結構整頓されていた。斗真らしいと思ったが、自分が来るから、疲れを押して片付けてくれたのかもと思うと、申し訳ない気持ちにもなる。


今夜は当然のお泊りの予定で、用意して来たラフな格好に手早く着替えると


(さぁ、やるか。)


キッチンに立つ。料理は嫌いではないが、普段はどうしてもつい面倒で外食や弁当で済ますことが多い。そんな自分が初めて彼氏に手料理を振舞うことになった、緊張はするが、これは自分の方から申し出たことなのだから、仕方がない。


(由理佳さんより美味しく出来るかな・・・?)


ふと、そんな対抗心が頭をもたげる。そして苦闘すること、2時間強。時計の針は既に10時を過ぎた。既に食卓には、完成した料理が並んだが待ち人の帰宅の気配はまだない。


(冷めちゃうから、早く帰って来ないかな。それにお腹すいた・・・。)


我ながらうまく出来た料理を前に、空腹を自覚してしまった彩だが、むろん恋人の帰りを待たずに、1人で先になんて気はさらさらない。


そして更に待つこと40分ほど、ついにインタ-ホンが鳴った。モニタ-で恋人の顔を確認した彩は、パッと表情を輝かせると、ドアに向かい、扉を開いた。


「お帰りなさい!」


自分でも自覚できるくらいの満面の笑みで出迎えた彩に


「ただいま。」


斗真も顔をほころばせた。
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