Far away ~いつまでも、君を・・・~
翌朝、慌ただしく出勤の準備を整えていた2人だったが、意を決したように彩が口を開いた。


「斗真さん。」


「うん?」


「昨日耳にしたくらいのお金なら、私用意できます。」


その彩の言葉に、斗真は顔色を変えた。


「バ、バカ。お前にそんな迷惑を掛けるつもりはないし、本当に大丈夫だ。」


「でも、そのお金の手配はつきそうなの?」


「そ、それは・・・だから大丈夫だって。あの程度の資金に事欠くようじゃ、先はないから。」


「でも、私でもなんとか出せるくらいのお金で、今なら済むんでしょ?」


「彩・・・。」


「もちろん、それ以上のことは私には無理だけど、今回は斗真さんの役に立ちたい。」


そう言って、彩は斗真を真っ直ぐに見つめた。


その夜、仕事が終わって、斗真の会社の近くのカフェで待ち合わせた2人。席につくや、斗真は彩に1枚の紙を差し出した。


「入金を確認した、これは借用書だ。当然だがあの金は俺個人ではなく、会社が彩に借りたことになるから、そういう内容になってる。まさかお前にこんな迷惑を掛けることになるなんて・・・本当に申し訳ない。」


そういうと、斗真は深々と頭を下げる。


「いいの、気にしないで。私が勝手にしゃしゃり出たんだから。」


笑顔で答える彩に


「おかげで危機は乗り越えられた。すぐに返せるはずだから、信用して待っててくれ。」


真剣な表情で言う斗真に


「はい。」


彩は大きく頷いて見せた。だが、これが彩が斗真に会って、話すことが出来た最後の機会となった。


これ以降も電話やLINEでの連絡は取れたが、会うことは出来なかった。今は忙しくて、時間が取れない。ごめんな。もう少しだけ待ってくれ。携帯から聞こえる恋人の声は、申し訳なさそうだった。


しかし、2週間ほどすると、彼と完全に音信不通になってしまった。携帯は留守電、LINEは未読のまま放置。


たまりかねて、マンションを訪ねても帰っている形跡がなかった。聞いていた彼の会社事務所に電話してみても、呼び出し音を何十回鳴らしても誰も出ずに、留守電にすらならない。どう考えても只事ではなかった。


(斗真さん、何があったの?どうして電話にも出てくれないの?)


焦りは募る。彼の実家にも、なんの連絡もないらしい。


心配のあまり、仕事も手につかない彩。捜索願を出した方がいいのか、そう思い悩みながら、その日、仕事場を出た彩に意外な人物から電話が入った。


「大地さん、どうしたの?」


元カレの瀬戸大地。彼とは別れてからは、当然直接連絡を取ることなどなかったから、彩は戸惑う。


『ネットニュース見たか?』


重苦しい大地の声が耳に入る。


『本郷が・・・警察に逮捕された。』


「えっ!」


信じられない言葉を耳にして、彩は呆然と立ち尽くした。
< 262 / 353 >

この作品をシェア

pagetop