Far away ~いつまでも、君を・・・~
「なんでそんなに周りの目を気にするんですか?本郷さんもOBであることを気にされてるのかもしれませんが、彼が犯した罪の一端でも先輩が背負う必要なんて、どこにもないでしょ。それとも、俺たちが知らないなにか後ろめたいことが、先輩にあるんですか?」


そう言って、真っすぐに自分を見る木下に静かに首を振った彩は


「わかった、やるよ。私でよければ・・・喜んで。」


そう答えて、笑顔になった。


次の日、木下の案内で、彩は会長を訪ねた。彩にとっては、遥かに上の先輩だが、彼女が現役時代から、熱心にOB・OG会に参加していたから、顔は見知っていた。


「この度は、会の役員を引き受けてくれてありがとう。心から歓迎します。」


客間に案内され、ソファに腰を下ろすと、会長は柔和な表情で言った。


「いえ。母校と弓道部には、やっぱり思い入れがあります。このような機会をいただき、また弓道部に関わらせていただけて、光栄です。どれほどの力になれるかはわかりませんが、どうかよろしくお願いします。」


やや緊張の面持ちで答えた彩に


「せっかく女の私が会長になったのだから、役員にも女性を増やしたいと思ってたの。まして、あなたは主将経験者だから、木下くんはいい人を推薦してくれたわ。」


嬉しそうに会長は言う。


「とりあえず、今後の連絡は、役員のグル-プLINEで取り合うことになるけど、大丈夫?」


「はい。」


「役員会の活動のメインは、夏のOB・OG会の企画、運営だけど、その他現役部員のサポ-トも随時行っています。確か廣瀬さんは現顧問の二階くんとは親しいのよね?」


「親しいというか、私の1年後輩で、一応主将として、面倒を見た間柄です。」


その返答に、隣の木下が、一瞬ニヤッと意味深な笑みを浮かべたのには、彩は気が付かなかった。


「じゃ、挨拶がてら、今度、部に顔を出してあげてちょうだい。彼とはこれから、いろいろ連絡を取らなければならなくなるから。」


「わかりました。」


その後、少し雑談を交わして、お暇することになった彩と木下を、会長は玄関まで見送りに出てきたが、ふと思い出したように


「廣瀬さんは、確か以前はホテリエをされてたのよね?」


と聞いて来た。


「はい。今年の夏まで6年間、勤めました。」


と答えた彩に


「そう、道理で、物腰がピシっとされてると思ったわ。」


会長はそう言って、大きく1つ頷いた。


会長宅を辞し、送り届けた彩が、自宅に入るのを見送った木下はおもむろにスマホを取り出した。そして呼び出した相手が出ると


「おい、お前のご要望通り、ちゃんと事は運んだからな。近日中に先輩は学校に顔を出すはずだ。」


と報告する。


『ありがとう。後はこっちでやるから。』


相手はまずは一安心というように答えた。
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