Far away ~いつまでも、君を・・・~
楽しい時間は、あっという間に過ぎ、京香を送る道すがら


「そう言えば、秀がさ、そろそろ忘年会兼ねて、また飲もうって。」


「いいね。じゃ、こっちの試験期間が終わったら、一回集まろう。」


「わかった、秀にも言っとくね。」


そんな会話を交わした2人。やがて、京香の家の前に着き、にこやかに手を振り合って別れた2人。遠ざかる恋人の姿をバックミラ-で確認しながら、尚輝は帰宅の途に着いた。


彩が尚輝に挨拶に来た日、下校途中の車の中で、2人は口論になった。


「あれだけ、私が反対したのに、なんで彩さんを呼んだの?彩さんがそれで、本当に喜ぶと思ってるの?」


「先輩は快く部の指導を引き受けてくれた。」


「えっ・・・?」


「先輩が来てくれることは、部の為になり、ひいては先輩の為になる。俺はそう思ってるよ。」


そう答えた尚輝に


「随分、彩さんのこと、気に掛けてるのね?」


「えっ?」


「なんで尚輝が、そこまで彩さんのことを考えてあげなきゃならないのよ!」


強い口調で、京香は反駁する。思わず京香の顔を見た尚輝だったが、運転中であり、すぐに視線を前に戻すと


「それは俺が彩先輩のことを・・・その尊敬してるから。あの人にどうしても笑顔を取り戻して欲しいんだよ。」


「尊敬・・・。」


尚輝の言葉にポツンと、そう繰り返すように呟いた京香は、それ以上は何も言おうとせず、黙って前を向いた。だが、その時の彼女の表情と仕種で、京香が彩の来校を快く思っていないということに、尚輝は気付かされた。かつての自分の彩への思いを、知り過ぎるほど知っている京香にしてみれば、それは無理もないことかもしれないと、尚輝も思わざるを得なかった。


以来、尚輝は彩との距離感に気を遣っていた。今日も練習に誘われたにも関わらず、断ったのも、彩と2人きりになるのを避けたからだ。


自分にとって、彩は今でも大切な存在ではあるが、だからと言って、それは恋人である京香とは全く違うものだ。今の尚輝にとって、京香は誰よりも大切であり、唯一無二の存在なのだ。


(京香に誤解されるようなことだけは、絶対に避けなきゃ。京香を悲しませたくないし、彩先輩にも迷惑を掛けてしまう。)


京香に不要な心配や不安を抱かせることは、全く尚輝の本意ではなかった。
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