Far away ~いつまでも、君を・・・~

「ありがとうございました。またのお越しを、是非お待ち申し上げております。」


彩は笑顔と共に、そう言って恭しく頭を下げて、チェックアウトした宿泊客を見送った。ホテルクラウンプラザのフロントクラ-クとして、彩がこの場に立つようになって、そろそろ2か月半近くが経とうとしている。


都市部より、少し遅れた桜の季節が過ぎ、GWにはまだ少し早いこの時期。この日は平日ということもあって、出立して行くお客は、そんなに多くはなかった。チェックアウト予定客のリストで、先ほどのお客が最後であることを確認した彩は、後方のオフィスに下がった。


同じホテリエではあるが、ウェディングプランナ-時代との一番の違いは、24時間体制のフロント業務ではいわゆる夜勤があることだ。かなり不規則な生活を強いられるわけで、当初は戸惑いも疲れもあったが、いつしか身体も順応してきて、世間様が昼食を摂ろうとする時間に、勤務を終えて、帰宅の途に着くということに対する違和感も、もうほとんどなくなっていた。


この日の勤務を終え、同僚に挨拶してオフィスを出た彩は更衣室に入った。ロッカ-を開き、まずは勤務中は手放したままの携帯をチェック。すると、すぐにLINEのメッセ-ジがポップアップされる。


メッセ-ジの送信主は颯天高弓道部の主将。


『彩コーチ、ご無沙汰してます。早いもので、新入生の部活入部期間も昨日で終わり、今年は16名の1年生が加入し、道場はまた活気に満ち溢れています。インハイ予選も着々と近づき、私たちの緊張感も少しずつ高まって来ているところです。お仕事はお忙しいと思いますが、GWが明けて、落ち着いたら、是非また、私たちの指導にいらしてください。お待ちしています。』


女子高生らしい絵文字やスタンプ交じりのメッセ-ジを、微笑ましく読んだ彩。


(そっか、もうそんな時期か・・・。)


彼女たちと会えないのも、せっかくまた身近になった弓と離れるのも寂しかった。仕事の多忙を理由に、彩が練習に顔を出さなくなって、もうひと月近くなる。


(本当は、お昼を食べて、一休みしてから学校に行けば、ちょうどいい時間なんだけどな・・・。)


夜勤明けの翌日は休日。コーチに行くには最高の条件なのに・・・メッセ-ジを返しながら、彩はふっと、ため息を吐いた。
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