Far away ~いつまでも、君を・・・~
また、一瞬の沈黙が流れ、そして彩は言った。


「ありがとう。」


「えっ?」


「尚輝の気持ち、嬉しいよ。せっかく手作りしてくれたチョコに興味もある。だけど・・・じゃ、とりあえずチョコだけもらっとくよとは・・・さすがに言えないからね。」


そう言って微かに笑った彩に


「先輩・・・。」


彼女の返事を察した尚輝は、力なく呼び掛ける。


「せっかく作ってくれたチョコを受け取らないのは残酷だろうけど、気持ちもないのに、それを受け取るのは、もっと残酷だと思うから。尚輝、ごめん。」


そう言って、頭を下げた彩は、背を向けて歩き出す。その後ろ姿を見送りながら、立ち尽くす尚輝に


「ダメだったか・・・。」


と後ろから声が掛かる。だが、自分を振り向きもしない尚輝の横に、京香はゆっくり歩を進める。


「今日は・・・さすがに俺、部活行けねぇわ。」


そう言って、ガックリと肩を落とす尚輝に


「仕方ないよ。」


慰めるように、そう言った京香は


「でも、一歩前進だったじゃない。」


「えっ?」


その言葉に驚く尚輝に


「だって、二階くんにチョコ差し出されて、廣瀬先輩、明らかに動揺してたし、今までのような塩対応じゃなかったじゃない?」


京香は明るく言う。


「そりゃそうかもしれないけど、振られたことには変わりねぇし・・・。」


そう言って落ち込む尚輝に


「距離置き作戦は、絶対無駄じゃなかったと思うよ。」


京香はあくまで前向きだ。


「二階くんが本当にサボるんなら、ヤケ食いでもヤケカラオケでも付き合うけど、こんなもんで諦める君じゃないでしょ?ということで。」


と言うと、尚輝からチョコの箱を取り上げた京香は、スルスルと包みを開ける。


「お、おい、何すんだよ。」


慌てる尚輝に


「せっかく作ったのに、もったいないじゃない。アドバイス料とチョコ作りのコ-チ料として、私がもらってあげる。」


と言うや、チョコを口に運んだ。


「おいしい~、やっぱりコ-チの腕がよかったのね。」


唖然とする尚輝の横で、京香は笑顔で、そう言った。
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